休業状態にある実質的な失業者数は、相当数に達する

リーマンショックのとき、当時、世界第4位の投資銀行が倒産した際、FRBは「リスクを取りすぎたために破綻しただけだ」と、即座に危機対応をしていなかったのです。この倒産はその後、世界に大きな衝撃を与えました。リーマンショックの経験を経て、金融危機が起きたらどのような事態に陥るのかが脳裏に刻み込まれました。

今回は、「金融危機を起こしてはいけない」というはっきりとした「命題」と「解決策」を中央銀行がわかっていることが今の株高につながっています。ただし、バブル化しすぎると、株価が崩壊するリスクが高まります。過度な株価上昇は必ず崩壊を招き、立ち上がれないほどのダメージを与えます。

20年11月のアメリカ大統領選挙の結果や新型コロナウイルスの第2波の拡大などにより、株価の「大幅な調整」の可能性は十分にあります。しかし、基本的には日米欧ともに、なりふり構わない金融緩和の政策を取っていることを大前提に、株価は一定程度下支えされると見ています。ただ、日本株に関して、20年の年末~1年後にかけて円高のリスクが存在します。過去、FRBが最後の利上げを停止して約2年前後から、円高に振れています。

1989年5月、00年5月、06年6月の最後の利上げ以降それぞれ、24カ月経った頃から円高になっています。利上げを行ってきたドル高の効果が約24カ月頃から薄れる傾向があるということでしょう。直近の最後の利上げは18年12月です。そこから、24カ月後は20年12月です。つまり約半年後です。過去の値動きを見ると円高のリスクを拭い去れず、円高になれば、輸出企業を中心に日本企業は苦しくなります。

さらに、一部専門家の中には1年ではコロナが収束しないとの見解を示している人もいます。仮にそうなれば東京五輪が吹っ飛ぶ可能性も出てきます。そうすると、インバウンドなどの関連需要が落ち込むことになり、1年後は円高リスクも加えると、さらに厳しい経済状況になる恐れがあります。

「5年」先を見通しましょう。FRBがほぼゼロ金利の政策を取っているのは、リーマンショック時と今回で2度目になります。リーマンショックが起きてから、FRBは08年12月~15年の7年間ゼロ金利を取りました。今回は22年までゼロ金利政策を約束しており、これが長引く可能性もあります。

リーマンショック後の08~15年には、欧州危機、アメリカでは財政の崖の問題などいろいろありました。12年末に安倍政権が誕生し、アベノミクスで円安に動きましたが、それまでは東日本大震災を経て、1ドル=75円の円高の時期もあり、日本経済は閉塞感のある状況が続きました。ここから先の「5年間」も、同じような円高に苦しむ時代の再来には身構える必要があります。

アメリカの5月の失業率は13.3%と厳しい水準が続いており、20年の年末には失業率を約9%と予想していることから、雇用の回復は緩慢な戻りを見込みます。日本では、失業率そのものが2桁まで上昇することは考えにくいですが、失業者とは定義されないものの、休業状態にある実質的な失業者数は、相当数に達するでしょう。

隠れ失業者数はリーマンショック時には355万人、今回は517万人と推計され、隠れ失業者を含む失業率は11.3%まで上昇する計算となります。リーマンショックが起きた08年の失業率4%の水準に戻るのに約5年間を要しています。コロナ収束後も、経済の低迷は長期化し、元の経済水準を取り戻すまでにかなりの時間がかかるでしょう。実質GDPが19年7~9月期の水準を取り戻すのは、24年10~12月期になる見通しです。ここから先、いかに早く立ち上がることができるかは、政府による雇用維持の政策、企業の経営維持を図る給付金、家賃支援策などが十分に機能する必要があります。