自粛生活の中で選挙への関心は低下

「新型コロナウイルスの感染拡大が再び起きている。2次拡大か分からないが、冬には本当の2次拡大があるとも言われている。経済状況も大変厳しい。政治はそこに専念すべき時であって、大きな政治空白をつくるのは国民の理解を得られない」

自民党と連立政権を組む公明党の斉藤鉄夫幹事長は7月3日の記者会見で、年内解散に反対する考えを強調した。冷静沈着、理論派として知られる斉藤氏がこのように断言するのは珍しいが、その反対理由は多くの国民の皮膚感覚と同じだろう。

7月5日に投開票された東京都知事選は、人々が密集する「密」をつくらないために選挙運動は極力抑制され、史上2番目の得票で圧勝した小池百合子都知事は「オンライン選挙」に徹した。投票率は4年前の前回に比べ5ポイント近く低下し、盛り上がりに欠けた。「なるべく外出を控える自粛生活をしている中で、とてもではないが選挙に注目できるほど余裕はない」(調布市に住む40代の男性会社員)との声も漏れた。

公明党には別の事情も存在する。支持母体の創価学会はコロナ禍で従来のような積極的な選挙運動を控えざるを得ない。支持者を大量動員するイベントを回避した結果、6月7日投開票の沖縄県議選では2議席も減らしている。7月2日には次期衆議院選挙で擁立予定の公認8人を発表し、選挙準備を急ぐ構えを見せるものの、比例九州ブロックの遠山清彦財務副大臣を神奈川6区に、東京12区には現職の太田昭宏前代表の後継として比例北関東ブロックの岡本三成衆議院議員を擁立予定のため「新しい選挙区で浸透するまでの時間は必要」(公明党関係者)というのが本音でもある。

解散総選挙なら「今年秋」一択…安倍総理も本気

とはいえ、背に腹は代えられない状況に追い込まれている安倍官邸に余裕はなく、その道は「自民党」の視点に立ったものになる。衆議院議員は来年10月に任期満了を迎えるが、安倍総理の自民党総裁任期はその1カ月前の来年9月末までとなる。

直前の夏には1年延期された東京五輪・パラリンピックの開催があり、少なくとも「2021年7~9月」に解散総選挙を実施するのは現実的ではない。残る選択肢としては、①今年秋②年末③年始④来年4~6月の4つというわけだが、世界各地に感染拡大したコロナの「第1波」を考えると、もし冬に「第2波」が到来した場合には②③④の選択肢は困難となる。つまり、コロナ禍で断行できるカードは事実上「今年秋」に限定されるといえる。

安倍総理は2012年末の総選挙で政権を奪還し、2014年末、2017年秋に解散総選挙を断行。参議院選挙と合わせれば国政選挙で6連勝してきた。支持率が低下傾向にある中でも国政選挙での勝利をテコに政権を再浮揚させてきた成功体験がある。コロナ対応で支持率が急落し、与党も霞が関官僚も面従腹背するようになった中でレームダック化を避けるためには「早く信を問うべき」(官邸関係者)という衝動にかられるのは理解できる。

選挙時期が固定されている参議院選挙を除けば、過去3回の総選挙はいずれも秋から年末までの間に実施され、たしかに安倍総理と相性は良い。「今年秋解散」を進言している安倍総理の盟友である麻生太郎副総理兼財務相は最近、安倍総理と10回近くも会談を重ねて解散戦略を練っていることから本気度がわかる。