麻生氏が「秋解散」にこだわる理由
麻生氏が「秋解散」にこだわる別の理由には、自身の苦い経験がある。麻生氏は総理就任直後の2008年秋、解散総選挙を断行する準備に入ったが、世界金融危機への対応や自民党の議席減が予想されたことから断念。だが、その後も麻生内閣の支持率は思うように回復せず、翌年夏の都議選で自民党は惨敗し、直後の総選挙で民主党に政権交代を許した。
2008年秋の解散にストップをかけたのは自民党選対幹部だった菅義偉官房長官で、その頃から政局勘という点で信頼されないようになった菅官房長官は解散戦略をめぐる相談相手から外され、今秋総選挙に慎重な人物への根回し役は麻生氏が担っている。
だが、公明党の斉藤氏にその提案は拒絶され、安倍総理に進言したとされる菅官房長官や二階俊博自民党幹事長の更迭も党内に激震を与える結果を招いている。そもそも、斉藤氏との「会談」だけではなく、解散案件という重要な「内容」が漏れるのは異例中の異例で、公明党の拒否感は強いと見て良いだろう。公明党の山口那津男代表は「まだブルペンに入っている状況ではない」と断じている。
総選挙間近にコロナが急拡大すれば大逆風は必至
もちろん、都知事選と同じ7月5日に投開票された都議補選で、自民党が全4選挙区で勝ったことを踏まえれば、いざ総選挙を迎えたとしても自民、公明の与党が勝利する可能性は高い。政党支持率は多少下がったとはいえ、自民党は野党第1党の立憲民主党を大きく引き離しており、2009年の時とは状況が大きく異なる。都知事選の結果を見ても、野党がまとまらず、大きな集票能力が見えない中での総選挙実施は与党に有利に働くだろう。
しかし、「今、それか?」である。麻生氏の解散スケジュールに欠けているのは、コロナの「第2波」到来時期だ。ウイルスは政局に左右されることなく、今冬よりも前に訪れる可能性がないとはいえない。今の状況だけを見て判断を下し、仮に総選挙間近に感染急拡大した場合には大逆風が待ち構えることになる。
出口の見えないコロナ禍では、いかなる選挙にもリスクはつきまとう。来年に感染状況が好転していると断言できる政治家はいない。そうであれば、再び政権を失いかねないリスクを負う覚悟はあるのか。コロナ禍で国民を不安にさせない選挙は実施できるのか明らかにする必要がある。