キューバ危機はなぜ収束したのか
読みながら思い出したのは、1962年10月、キューバ危機における米ソ首脳の「対話」だ。核による「勝者のいない戦争」を避けるため、また互いの意図を読み間違えて破滅的な事態を招くことを避けるため、ケネディ大統領は自国の安全保障担当者による情報提供を元に徹底的に対応を検討し、さらにソ連側の首脳とも意を尽くした書簡を交換した。その模様は、ケネディ大統領の弟で司法長官だったロバート・ケネディの『13日間キューバ危機回顧録』(中公文庫)や、映画『13デイズ』などに詳しい。
この時ケネディは、できる限りの情報を集め、ソ連によるキューバへのミサイル基地建設の動きに対してどのように対処すべきかを考え抜き、攻撃か回避かで分かれる部下たちの意見も聞いたうえで決断を下した。13日間、粘り強く思考し続け、語り続けたケネディ(と相手)の姿勢と能力があったからこそ、決定的な危機を回避することができたのだ。
米朝核戦争はキューバ危機のようにはいかない
一方、トランプはどうか。現実をトレースして描かれている『2020年・米朝核戦争』では、トランプ大統領は北朝鮮のミサイル能力を「狙ったところに落ちるはずがない」としてなめ切っている。「落とせるものなら落としてみろ」というわけだ。なぜそうした思い込みをトランプ大統領が抱くに至ったのか。要約すると、本書ではこう説明している。
「トランプの機嫌を損ねないように、また一足飛びに『それなら北に核を落としてやれ』と言い出さないように、北朝鮮のミサイルの脅威はあくまでも将来的なものであるといい続け、大統領の思い込みを訂正する者はいなかった」
つまり、ケネディ時代のようにあらゆる情報が大統領に届けられることも、情報をもとに部下らが闊達な意見を交わすことも許されない状況にあるというわけだ。これが現実でないことを祈るばかりだが、残念ながらそれを裏付ける現実の情報ソースがしっかりと示されている。
一方、北朝鮮の金正恩も、入ってくる情報がかつてのソ連以上に偏っていることは言うまでもない。つまり、米朝ともに「様々な情報を多角的に考察し、最悪の事態を迎えないよう思考を尽くす」という状況にないのだ。これこそ、著者の最大の懸念であり、『2020年・米朝核戦争』の読みどころではないか。