「イエスと言ったら自分は何を失うか」を考える

・判断を関係性から切り離す

誰かに何かを頼まれたとき、私たちはそれを関係性の問題だと思ってしまう。頼みを断ることが、相手を拒絶することだと感じてしまうのだ。この2つを分けて考えなくてはならない。

関係性から切り離して考えたとき、判断はより明確になり、それを伝える勇気と思いやりも生まれてくる。

・直接的でない表現を使う

「ノー」という言葉を使わなくても、ノーを言うことは可能だ。時には直接的な表現を避けて、やんわりと断ることも必要になる。「声をかけてくれてうれしいのですが、あいにく手がいっぱいで……」「行きたいのは山々ですけど、時間があるかどうか……」

・トレードオフに目を向ける

ここでイエスと言ったら、自分は何を失うのだろうか。そのトレードオフに目を向ければ、中途半端なイエスは言えなくなる。どんな判断をするときも、機会コストを忘れてはならない。「もしもこれを選んだら、別のもっと価値あることができなくなる」ということだ。全部やってみよう、という非エッセンシャル思考の罠にはまってはいけない。すべてをやることは不可能だ。失うものを冷静に計算し、納得できる答えを出そう。

・誰もが何かを売り込んでいる

人はみな、何かをあなたに売り込もうとしている。人間不信になれとは言わないが、それが事実だ。商品にかぎらず、物の見方や特定の意見を売り込んでいることもある。相手が何を売り込もうとしているのか、自分はそれによって何を失うのか。それを意識して、より合理的な判断をしよう。

断ることは「自分の時間を安売りしない」というメッセージ

・好印象よりも、敬意を手に入れる

ノーを言うことで、短期的に相手と気まずくなることはある。相手は「これをしてほしい」と思っているのだから、やはり断られたらがっかりする。それは事実だ。だが、長期的に見ればポジティブな面もある。短期的な気まずさと引き換えに、相手の敬意を手に入れられるからだ。うまく依頼を断ることは、「自分の時間を安売りしない」というメッセージになる。これはプロフェッショナルの証だ。

有名グラフィックデザイナーのポール・ランドは、スティーブ・ジョブズの依頼にノーを言ったことがある。1985年に立ち上げたNeXT社のロゴを探していたジョブズは、数々の有名企業のロゴを手がけていたランドに連絡をとり、「いくつか候補を出してほしい」と依頼した。けれどもランドは、いくつも候補など出さない、とジョブズに告げた。

「仕事はしますよ。それで気に入らなければ、使わなくてもかまいません。候補がいくつもほしいなら、ほかを当たればいい。私は、自分の知るかぎり最高の答えをひとつだけ出します。使うかどうかの判断は、そちらでしてください」

そしてランドは「これしかない」という答えを出し、ジョブズを感動させた。一度はノーと言われて苛立ったジョブズだが、のちにランドについてこう語っている。

「彼は私が知るなかで最高にプロフェッショナルな人間だ。プロとして、クライアントとの関係のあり方を徹底的に考え抜いている」

ジョブズにノーと言ったとき、ランドは熟慮のうえでリスクをとった。そして目先の好印象と引き換えに、長期的な敬意を手に入れたのだ。

エッセンシャル思考の人は、みんなにいい顔をしようとしない。時には相手の機嫌を損ねても、きちんと上手にノーを言う。長期的に見れば、好印象よりも敬意のほうが大切だと知っているのだ。

・あいまいなイエスはただの迷惑

何かを依頼したことのある人ならわかると思うが、あいまいなまま引き延ばされるよりも、はっきり断られるほうがずっといい。できないとわかっているのに「うまくいくように動いてみます」とか、「たぶん大丈夫だと思うんですけど……」などと言っておいて、結局できないというのが最悪だ。あいまいにしておいて結局断るくらいなら、その場ですぐに断るほうがいい。相手へのダメージもずっと少なくてすむ。