復興基金を巡るEUの南北対立
復興基金が創設される運びとなったこと自体は、EUにとって重要な意味を持つ。また独仏の二大国が危機の克服のために手を取り合ったことも大いに評価できる。とはいえこの構想においてもまた、贈与による支援を渇望するイタリアやスペインといった南欧諸国と、それに反目するオランダやスウェーデンなどの北部諸国との間で軋轢が生じている。
深刻なコロナ禍に襲われ、経済に甚大な悪影響を被った南欧諸国の場合、政府が重債務問題を抱えているため、大型の経済対策を打ち出すどころか、通常の財政運営を行うことさえ危うい。貸付ではなく贈与による支援を求めざるを得ない状況に置かれていた南欧諸国だが、その窮地を察したのは本来なら財政の一元化に慎重なドイツだった。
これまでの立場を転向させたドイツであるが、それはEUの大国としての責務からの振る舞いだったと言えよう。将来的な財政の一元化はさておき、非常時である現在は原則よりも裁量が優先される局面だと判断したのかもしれない。過去に、財政支援に際して貸付にこだわり続け、事態を複雑にさせた対ギリシャ支援の教訓が働いた側面もありそうだ。
しかしオランダやスウェーデンなどドイツを除く北部諸国は、そもそも財政の一元化に対してネガティブであるうえに、ドイツのような良い意味での大国意識を欠いている。そのため南欧諸国に対する財政支援は貸付で行われるべきであるという立場を堅持、そのことが、当初の構想から復興基金がサイズダウンする原因にもなったようだ。
カネに引き寄せられて、南欧諸国は再び中国に接近か
復興基金が無事に稼働するかどうかは、6月18日のEU首脳会議で決まる。ここで決裂すれば、現在、欧州中銀(ECB)の金融緩和もあって小康状態を保っている金融市場が大きく動揺することになる。具体的にはイタリアやスペインの金利が急騰すると懸念されるが、EUとしてこうした展開は受け入れることなどできない。
そのため6月18日のEU首脳会議での決裂はテールリスクであると考えられるが、無事に復興基金が稼働したとしても、その後も北部諸国が南欧諸国への財政支援を渋るような態度に終始すれば、南欧諸国はEU以外の国々に支援を要請せざるを得ない。その場合にキープレーヤーとなるのは、EUが現在、距離を置こうとしている中国である。
コロナ禍での株安を受けて、中国は欧州企業の買収攻勢を強めている。技術流出を懸念するEUは対中姿勢を硬化させ、投資に対する審査を厳格化している。中国に対して好意的であった南欧諸国もまたEUの意向に従い、表向きは対中姿勢を硬化させているが、背に腹は代えられない状況になれば、南欧諸国は再び中国に接近することになるだろう。
実際に中国は、イタリアやフランスなどに医療機器を贈る「マスク外交」を展開、硬化した対中姿勢の切り崩しにかかっている。EU内での財政支援がうまく機能しなければ、南欧諸国に中国が一段と進出する事態を招きかねない。アフターコロナの経済復興支援策のあり方は、経済のみならず対中関係の観点からも重要な意味を持っているわけだ。