その講演をしたご本人が率いる日銀が、国債爆買いを継続し、なんと今では発行国債の半分近くを保有するに至ってしまったのだ。

一方、前日本銀行総裁時代の白川総裁がフランス銀行「Financial Stability Review」(2012年4月号)に掲載した論文の邦訳(2012年4月21日)を見てみよう。

「歴史的にみれば、中央銀行による財政ファイナンスがインフレをもたらした事例は少なくない。例えば、1920年代前半のオーストリア、ハンガリー、ポーランド、ドイツのハイパーインフレ、第二次大戦後1950年頃までの日本のインフレは、いずれも、中央銀行の財政ファイナンスが原因となっている。そうした経験に学んできたからこそ、現在は中央銀行の独立性が重要という考え方が確立されており、多くの国で中央銀行による財政ファイナンスは認められていない」

黒田日銀が押し進めた「発行国債の半分近くを中央銀行が購入してしまった状態」を財政ファイナンスと言わずになんというのだろうか? この財政ファイナンスにより、日銀のバランスシートは巨大化した。それも世界断トツのメタボぶりだ。

私は、異次元緩和を開始するまでの日銀だったら、ハイパーインフレの心配など全くしない。物価のコントロールは日銀の主たる業務の一つで、そのための武器(=インフレへのブレーキ)を持っていたからだ。

出口論なき黒田日銀の金融緩和

異次元緩和を開始したことで日銀はそのブレーキを失ってしまった。ブレーキが無いから、冒頭に書いたように、黒田日銀総裁は「金融緩和からの出口論」を封じていたのだ。封じていたというより、無いものは答えられなかった、と言った方が正しいかもしれない。

それでも何とか答え始めたのが「ジャブジャブにした資金の回収」と「政策金利の引き上げ」だ。量の縮小の困難さに関しては前回、詳しく書いた。

政策金利の引き上げも非常に難しい。伝統的金融政策下での政策金利引き上げは簡単だった。中央銀行が民間銀行市場に供給する資金の量を少し減らすだけでよい。これは中央銀行当座預金残高が法定準備金とほぼ同額だったから出来た操作だ。

今のように銀行間市場にお金がジャブジャブしており、中央銀行当座預金残高が法定準備金よりはるかに多い状態では当時の手法での金利操作は不可能なのだ。

多くの中央銀行が異次元緩和を始め、銀行間市場にお金をジャブジャブに供給し始めた時、我々金融界の人々は「将来、どうやって利上げするんだろうね、後は野となれ山となれ政策かね?」と話しあったものだ。誰も手法を思いつかなったのだ。

FRBが見つけ出した付利金利引き上げという新技

しかしFRB(米連邦準備制度)が見つけ出した。私も「さすがFRB」と感心したものだ。その手法とは民間銀行が預けてある当座預金の付利金利を引き上げるというものだ。中央銀行当座預金に1%付利すれば1%以下で企業に融資をする民間銀行はない。

中央銀行に預ければ1%の金利をもらえるのに、面倒くさい事務や信用リスクを取ってまで1%以下で企業に貸す理由など無いからだ。実際FRBは2015年暮れから2019年にかけて、その手法で政策金利を引き上げていった。しかし、それはFRBだからこそ出来たのであり日銀には不可能だ。