こんな皮肉を誰が40年前に想像しただろうか

しかし、そうはならなかった。むしろ「豊かになっても民主化を求める声が増えない(あるいは押さえつけられる)政治体制」の必要性を、中国に強く意識させることになったようだ。中国では、国営でない民間企業であっても党組織を社内に設置することが「奨励」されている。こうした党組織を備えたまま海外に進出する中国企業も少なくなく、中国を出ても党の干渉からは逃れられない。また、本来であれば人々の生活を向上させ、自由な発想をより生みやすくなるはずのテクノロジーの発展が、かえって中国の独裁体制を強化することにつながってもいる。

こんな皮肉を誰が40年前に想像しただろうか。

事態を「逆手に取る」、つまり弱点を強みに変え、ピンチをチャンスに変えることのできる点が、中国の強みなのかもしれない。20年初頭から世界を揺るがせている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行も、中国を利することになりかねない流れになりつつある。

新型コロナ感染症の流行では、中国は国際社会から発生源としての責任を追及されるとともに、当初は国内でも情報隠蔽や対処の遅れを指摘される状況にあった。発生地論争は特にアメリカとの間で今現在、熾烈しれつな争いを展開している最中だが、一方で中国は各国に比べていち早く感染症の流行を封じ込め、今や各国へ衛生品を輸出し医療体制を支援する側に回っている。

「マスク外交」という国家戦略にはまる諸外国

この中国の動きは「マスク外交」とも呼ばれている通り、国家戦略に基づくものだ。「新型ウイルスを蔓延させた責任を感じての罪滅ぼし」などではなく、マスクなどの衛生品を「戦略物資」と位置づけ、この機に中国の国際的なプレゼンスを向上させる目的がある。

感染が爆発しているイタリアでは、自国に支援の手を差し伸べる中国に対して「これこそ連帯だ」との声が上がり、言葉ばかりで実際の支援が伴わないEU各国への不信感が募っているという(イタリア支援でEUにくさびを打ち込んだ中国)。

動機は何であれ、すでに病を鎮圧した国からの助言や支援は、感染症流行中の国にとっては実にありがたいものであろう。アメリカが自国のコロナ対策で手いっぱいで国際的な働きかけができない今、中国はコロナ事態を「これからの国際社会のリーダーはアメリカではなく中国だ」と印象付ける好機と見て、まさにピンチをチャンスに変えるべく外交、情報、あらゆるチャンネルをフルに使って攻勢を強めている。