オンライン授業は、不十分でも、有力な選択肢

私はこれまで、教師が極めて多忙な状況に置かれてきたこと、そしてそれがさらに悪化しかねない「1年単位の変形労働時間制」が公立学校に導入されそうなことについて発信を行ってきました。詳しくは私も寄稿した『迷走する教員の働き方改革』(岩波ブックレット)を参照いただきたいのですが、こうした発信を行ってきた背景には、「教師が必ずしも担う必要のない業務を減らし、その代わりに教科指導を中心とした本務に注力し、教育公務員としての務めを果たしたい」との思いがあります。

内田良、広田照幸、高橋哲、嶋崎量、斉藤ひでみ『迷走する教員の働き方改革』(岩波書店)
内田良、広田照幸、高橋哲、嶋崎量、斉藤ひでみ『迷走する教員の働き方改革』(岩波書店)

最近は学びの場が多様化してきているとは言え、あらゆる子どもに少しでも質の高い学びを保障することが教育公務員の使命だと考えています。その一番大切な授業を、子どもに全く提供できていない現状に、私は率直に言って強い危機感を抱いています。

皮肉なことに、大半の教師は休校の影響を受け、一時的に多忙化が解消されました。しかし、こうした現状に安堵するだけでなく、生徒の学力保障のために少しでも今何ができるのかを真剣に考えないといけません。私は、オンライン授業は、不十分でも、生徒の学びを補う有力な選択肢と考えています。仮に環境が整っていないならば、教師が国や自治体に向けて要望を行うなどの動きがあってもいいと思います。

身近な教師だから、教えられることがある

世の中には、教育番組もあれば、YouTube上にわかりやすい講義動画も存在しています。そういった、すでにある良質な映像授業は十分に活用すべきですが、それだけで学んでいける子どもは少ないのです。子どもと直接関係を持つ身近な教師だからこそできる、教育的支援があると考えています。

こうした理由で、私は現場の教師から「早く子どもと触れ合いたい」「授業をやらせてほしい」という声が高まってほしいと思います。休校が続いて学校の機能が果たせていない現在、これ以上何もできないからと諦めるばかりであれば、それこそ公教育の存在意義や責任が問われかねず、YouTubeのカリスマ講師がいればそれでいいのではと言われても仕方ないでしょう。しかし公教育は、その授業を受けられる環境があり、 適応できる一部の子どもだけでなく、あらゆる子どもたちの学びを支え、教育格差の是正や市民の育成を果たすという使命を帯びているのです。自学自習につまずき、学習支援を必要とする生徒に対して何ができるのか、というところからこの問題を考えたいと思います。

子どもの学力保障の観点からも、公教育の意義が問われる事態であるという観点からも、例え不完全でベストではない試みであっても、教師が教育の維持に挑戦する姿を見せたいと思います。それこそが、教育者にとっての新型コロナウイルスとの闘いだと思うのです。

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