コロナ禍では「里帰り出産の自粛」も
新型コロナが少子化問題に与える影響は、経済的な側面だけではない。「出産環境」にも影響が出ている。そのひとつが、妊婦が出身地などに帰省して出産する「里帰り出産」だ。感染拡大防止のために地域間での移動の自粛が要請されているなか、厚生労働省は4月27日までに里帰り出産も自粛が望ましいという見解を示し、全国の自治体に「現在住んでいる地域で出産を考えていただきたい」とする文書を通知した。
あわせて厚労省は自治体に里帰り出産を自粛した妊婦へのケアを要請、また日本産婦人科学会も会員の産婦人科医に対し妊婦の居住地域での代わりの分娩施設の紹介を要請しているが、要請だけでは妊婦の不安は消えないだろう。「代わりの分娩施設」とはどこにあるのだろうか。
妊娠4カ月の東京在住の女性「出産難民になる…」
かねて東京など一部の地域では妊娠が判明したと同時、もしくは赤ちゃんの心拍が確認できる妊娠5~6週目あたりで分娩予約しないと、産院が見つからないという状況にあった。ただでさえ直近の分娩予約は取りづらいのが現状だ。
ある妊娠4カ月になる東京在住の女性は地方での里帰り出産を予定していたが、このコロナ禍で出産を検討していた病院が県外からの受け入れを中止したのだという。代わりの分娩施設を紹介されることもなく、いま自力で産院を探しているそうだ。女性は「今から探して産院が見つかるかわからない。今日も問い合わせた5件すべてに断られた。このままでは出産難民になるかもしれない」と不安を訴えている。
不妊治療も延期を推奨が少子化に拍車
また新型コロナウイルスが出産に及ぼした影響のひとつに「不妊治療」がある。4月1日、日本生殖医学会は、妊婦が新型コロナに感染した場合の重症化のリスクや、治療薬として効果が期待されるアビガンが妊婦への投与を禁忌としていることなどから不妊治療延期の検討を促す声明を発表。期間の目安を国内における新型コロナウイルスの急速な感染拡大の危険性がなくなるまで、あるいは妊娠時に使用できる予防薬や治療薬が開発されるまでとした。
この声明を受け、一部のクリニックでは患者に対し採卵や胚移植など具体例を挙げ治療の中止を推奨する動きが見られる。
不妊治療が行われなければ、出生数にどれほどの影響があるのだろうか。日本産婦人科学会が公表しているデータによると、体外受精や顕微授精など生殖補助医療によって生まれる子供の数は17年に5万6617人を数えたという。その年に生まれた赤ちゃんの約16.7人に1人が高度不妊治療により生まれたという計算で、その数は年々増加している。