現場を最大限楽しむのにカメラは邪魔になる
身軽なら電車やバスでの移動も楽です。
僕はいつも地元のワイン一瓶を買って電車やバスに飛び乗ります。そのワインを車窓からの景色を眺めながらチビリチビリと飲み、きれいな町があったら適当に降りてみる。途中でパンやチーズでも買えれば最高です。地元の食を楽しみながら現地をぶらぶら歩く。こうしてイタリアやフランスはそれぞれ200近くの町を歩きました。
現場を楽しむための盲点はカメラです。僕は30代のはじめ頃まではカメラを持参し写真を撮っていました。凝り性なので地元の町の写真コンテストに入賞したこともあります。確かスペインのアルハンブラ宮殿の写真でした。でもある時、旅先で撮ったフィルムを現像すると見たことのない景色が写っていました。
その時、自分はいい写真を撮ることが旅の目的になってしまっていて、自分の目でしっかり見ていなかったのだと気付いた。それからは「忘れるものは大したものじゃない」と割り切って、カメラを捨てました。自分の目に焼き付けることの方が何よりも大事なことだと思ったからです。
楽しみを増やすには日頃から学ぶこと
ですから旅に特別な準備はいりません。好奇心の赴くままに現地を自分の足で歩いて体験すればいいのです。楽しみを増やす方法があるとすれば、やはり「人・本・旅」で日頃から学ぶことです。知識は思わぬところでつながることがあります。
それで思い出すのが、中世ドイツの最盛期を築いたザーリアー朝(1024-1125年)の皇帝の墓が見たくて、ドイツのシュパイアー大聖堂を訪ねた時のことです。大聖堂の地下には歴代の皇帝が眠っていました。その中にハプスブルク家のルドルフ(1218-1291年)の棺もあり、これは勝手に大発見だと思いました。
ルドルフはハプスブルク家からはじめてドイツ王になった人物です。僕は歴史オタクですから、ルドルフがハプスブルク家初の王位に就いた人物だと知っていました。
ルドルフは昔の大王朝の皇帝の墓室に入れてもらうことで自分も同格だということを示そうとしたのでしょう。きっと自分からはじまる大王朝をつくりたいという野望を持っていたのだろうなどと想像をめぐらせるのは楽しいことですよね。