【2】伝統←→革新

 これは一見、最初の軸に似ているように思われるのですが、かなり中身が異なります。

第2軸は、「新しいことにチャレンジすることが奨励される」か、「いままでどおりのやり方に疑問を持たずに、ルールや秩序を守れるか」の二者択一と言い換えるとよいでしょう。

1軸の「協調⇔競争」は、周囲との関係についての話であり、これに対して2番目の軸は、「過去と現在」「現在と未来」の関係についての話なのです。

さて、伝統を重んじるか、革新を重んじるか、の差はどんなところから生まれるでしょうか。

それは、「会社の過去の遺産」がビジネスに与える影響です。

たとえば、ハイテクメーカーには、連綿と積み上げた技術があります。また、工場やそこで稼働する設備があります。さらに、販売会社があり、各地にお店も持っています。そこで売られた製品や、過去に打ったテレビ広告などで、知名度や認知度もあり、それらすべてが統合されて、人々の心の中で、ブランドイメージとして蓄積がされているはずです。

こうしたものすべてが、「過去の遺産」なのですね。

さて、これだけ過去の遺産があると、新たに何か、全く毛色の違うことができるでしょうか? たとえば、家電メーカーが、アパレル産業に進出できるでしょうか? これは極端かもしれませんが、高級アパレル産業が、「高級」を売りにレストランを開くとしても、かなり敷居が高いはずです。さらにいえば、過去の遺産は、不動産・設備・特許・ブランドなどの「資産」と呼ばれるものだけでなく、そこで働く人々も含まれるのです。彼らを解雇することはできないし、新しい仕事をすぐに覚えてもらうこともむずかしい。こうした環境にいれば、「新しいもの」を作り上げることよりも、「伝統を守る」方に力点が置かれることになるのは、自明の理でしょう。

伝統・革新

伝統・革新

もうひとつ、考えるポイントを出しておきます。

過去の遺産が多いということは、すなわち、工場やお店などの設備がしっかりとでき上がっていることになります。とすると、もし、自分が仕事をサボっていたとしても、製品はちゃんと作られ、それは店に並べられ、自然と売上が立つということになります。こうしたビジネスのことを「日銭が稼げる」と呼んだりします。確かに、よいチラシをつくるとか、新しい製品を開発する、という努力を怠れば売上は徐々に減っていくでしょう。しかし、すぐにゼロにはなりません。とすると、大きく変革をして、ともすると売上ゼロの可能性があるなら、今のビジネスをうまく長生きさせる方に自然と気持ちは引きずられるでしょう。これが、「伝統重視」となっていくのです。

 一方、リクルートや商社の場合、眠っていたら、とたんに売上はゼロになってしまいます。こちらから、いろいろ考えて、提案してビジネスをつくり上げなければならない、という宿命がある。そこで、次々新しいことを考えて、顧客のニーズを先取りしていく動きが常に追求される。だから、「革新」寄りになる。

このあたり、おわかりいただけましたか?

整理しましょう。伝統か、革新かは、次のような点を見てください。

(1)過去の遺産でできている部分が多いのか?

(2)技術やブランドや設備や施設、古くから働くたくさんの人などに囲まれた事業か?

(3)眠っていても、何かしらの「日銭」が稼げる事業か?