「もうどうしたらいいかわからない」

海老原嗣生氏
海老原嗣生氏

その学生が、私のもとを訪れたのは、大手企業の採用戦線がそろそろ終盤にさしかかる4月の中ごろでした。慶應大学商学部に現役合格、留年もせずストレートに卒業した、世に言うエリートの卵でもある彼が、青白い顔で、私にこう言いました。

「内定が全く取れません。すでに大手企業はあらかた採用も終えています。クラスメイトも内定を取れた人がどんどん増えています。もうどうすればよいか、僕にはまったく見当がつきません」

実は、彼と会うのはこれが初めてではありませんでした。知人の息子さんということで、それ以前にも2度ほど会ったことがあります。そのときに、酒を酌み交わしながら話をした彼の印象は、まさに好青年。彼の日常生活や学生活動を聞いているうちに、気が優しく、回りに配慮するタイプであり、争いごとをうまく調整していくような「縁の下の力持ち」タイプ、という人物像が、すっかり私の中ではできあがっていました。

つまり、学歴も人柄も保証つきのその彼が、何社も落ちまくって失意のどん底にあったのです。

浅はかなマスコミ報道なら、「慶應生でも不合格、就活戦線まさに氷河期」とか、「企業の採用意欲はどん底、苦しむ学生たち」と大騒ぎするところでしょう。ところが、私が思ったことは全く違いました。

「やっぱりな」