院内感染が次々と確認される怖さ

台東区の永寿総合病院でいわゆるメガクラスターが発生し、医師・看護師など医療従事者69人と患者94人が感染したことは記憶に新しい。中野区の中野江古田病院、墨田区の都立墨東病院でも大規模な院内感染が確認されている。その他、慶應義塾大学病院、東京慈恵会医科大学附属大病院、国立がん研究センター中央病院、練馬光が丘病院などでも院内感染が確認されている。

院内感染が起こるとどうなるかというと、一言で言えばその病院がダウンする。例えば看護師1人の陽性が確認されれば、その時点で同じフロアで働いていた看護師は全員、自宅待機になる。院内のどこにウイルスがあるかわからないので、外来診療や新規の入院、面会者も入れることができなくなる。病院機能そのものが、部分的もしくは完全にダウンしてしまうのだ。これが広範囲かつ連続的に起きてしまった状態が、いわゆる医療崩壊だ。

確立された治療法がいまだない今、人工呼吸器が重症患者にとってのライフラインだ。しかし、この人工呼吸器も誰でも使えるわけではない。ICUでの治療となれば1人の患者に医師、看護師、臨床工学技士などがチームでつき、24時間態勢で呼吸管理にあたることになる。病床や医療物資だけでなくマンパワー=医療従事者も、大事な医療リソースなのだ。

42万人が死亡する恐れ

厚生労働省のクラスター対策班は4月15日、衝撃的な試算を発表した。人と人との接触を減らすなどの対策を全く行わなかった場合、日本における重篤患者は約85万人に達し、半数の約42万人が死亡する恐れがあるとの内容だ。これは「全く対策を行わなかった場合」のことであり、逆に人と人との接触を8割減らすなど感染拡大防止対策を徹底していけば、1カ月で封じ込めが可能とのことだ。

一方で、クラスター対策班が試算の前提にしていたのは、重篤患者が人工呼吸器などによる呼吸管理、ICUでの治療が受けられる環境だ。医療崩壊によってこの治療すら行えないようなことは考えていない。危機管理の要諦は最悪を想定すること。悲観主義に立って最悪のケースを憂い、備えることが大事だ。

この最悪を回避するための条件であり最重要課題は、医療従事者が感染しないことだ。では、どのように医療従事者を感染リスクから守るのか。答えはシンプルで、いかにウイルスから遠ざけるかだ。もちろん職務の性質上、感染者とは接触することになる。これはどうやっても避けられない。

マスク、防護服の優先配備や、感染者隔離の設備配備を

大きく分けるとハード面とソフト面だ。ハード面ではマスクや防護服などを優先的に配備すること、感染者を隔離するための設備や動線を整備すること。ソフト面では人員配置だ。

医師や看護師は患者の治療に追われ、どうしても自分たちのことは後回しにしてしまうのかもしれないが、特に新型コロナ治療の最後の砦である指定医療機関においては、症状の有無にかかわらず早急に、医療従事者全員のPCR検査を実施、陽性者と陰性者を特定し切り離すべきだ。ダウンした病院への対応など含め、戦略的な人員配置を行う必要がある。

まず東京都としてやらなければならないのは、医療物資を絶えず潤沢に供給することだ。特に指定医療機関で闘っている医療従事者にとって、マスクや防護服はライフライン。備蓄があることと、現場が間に合っているかどうかは別だ。これまで以上に現場との連絡を密にし、常に状況を把握しつつ、足りないものはその日のうちに送る。この体制を都に求めている。