「トランプ対WHO」「アメリカ対中国」の行方は?

トランプ氏には、前述したテドロス氏の更迭以外にもうひとつ大きな思惑がある。11月の大統領選を少しでも有利に運ぶために、アメリカに世界最悪の感染者数と死者数を出した責任をすべてWHOに転嫁し、「初動対応が遅れた」という自身への批判をかわそうと考えている節がある。

事実、トランプ氏に対しては政権内部でも「政権幹部の警告を軽視し、対応が後手に回った」との批判が強まっている。野党民主党の全国委員会は声明を出し、資金拠出停止は「自らの失敗への批判をそらすため」と批判している。

WHOのテドロス事務局長は15日、スイス・ジュネーブの本部で記者会見し、「拠出金の停止は遺憾だ。今後は加盟国と協力して財政的な欠落を埋める」と述べた。中国も同日、「重大な懸念」との見方を示した。

「トランプ対WHO」「アメリカ対中国」の行方は今後どうなるのか。新型コロナウイルスの収束が見えない中で、大きな懸念材料である。

「乱暴」と書きながら「正しい」と評価する産経社説

4月16日付の産経新聞の社説(「主張」)は「米国の拠出金停止 WHO改革を強く求める」との見出しを掲げ、トランプ氏をこう擁護する。

「国連のグテレス事務総長は直ちに『ウイルスとの戦いで、WHOの活動資金を削減するときではない』とする声明を出し、見直しを求めた。今、最も避けるべきはWHOの機能不全である。トランプ氏の手法は確かに乱暴だ」
「ただし、『WHOが中国の偽情報を広めた』とするトランプ氏の批判は正しい。感染が拡大し始めた今年1月の時点で、WHOは『人と人の感染はない』『(国境をまたぐ)渡航禁止は必要ない』と主張していた」

「確かに乱暴だ」と批判した後、すぐに「正しい」と評価する。昔から中国嫌いで知られる産経社説である。かつては特派員が中国から追い出され、台湾に特派員を送り込んで取材を続けていたこともあったほどだ。トランプ氏をテコに使って中国批判を展開したいのだろう。