外出自粛の自宅閉じこもりでセロトニン値低下→うつ病リスク

人々の行動を規制するためのガイドラインを考えるための専門家会議であるはずなのに、心理的悪影響を検討する心理学者や精神科医も入っていない。また、症状を軽くすませるための方法論を検討したり、どういうふうに免疫力がつくのかを考察したりする免疫学者も入っていない。こういう形で、人々の行動指針を決めていいのかというのが医師としてのわたしの素朴な疑問である。

テレビ番組に出演するコメンテーターやゲスト解説者もほとんどが感染症学者で、どうやって感染を防ぐかという話に終始している。その結果、街を出歩く若者を断罪するような風潮が形成されている。感染爆発するかどうかの鍵は若い世代であることは知っている。だが、前回記事でも書いたように、人々が家に長期間閉じこもることによる精神医学的・免疫学的な悪影響がほとんど語られないのはおかしい。

ここにきて週刊誌などでは、これまでと異なる視点でコロナ騒動にアプローチする動きが出てきた。たとえば『週刊女性』(4月7日号)には「次はコロナうつが襲ってくる」という見出しの記事があった。これも不安をあおるものと言えなくもないが、「心理的な悪影響」を完全に無視するよりは良心的だと私は考える(同号では、免疫学者にインタビューして免疫力を高める方法も紹介していた)。『週刊ポスト』(4月3日号)では「このままでは感染死の10倍の自殺者が出るぞ」というセンセーショナルな見出しが出ていた。

「10倍」という数字はともかく、過度な外出自粛の精神面での悪影響や日光を浴びないことでのセロトニン値の低下を考えると、うつ病のリスクが高まるのは間違いない。

「コロナ関連死」が8000人でも何も不思議はない

わたしは先日、医師のかたわらに長年手がけている教育事業の売り上げがコロナ騒動の影響で激減したため緊急融資を申し込んだが、過去3年分の決算をみて審査するという返答だった。政府が金融機関に無審査融資を促していないということだが、まるで業績が悪い会社は売り上げが落ちたらそのまま潰れろというような物言いで不快だった。実際、私のところには融資しないという結論がきた。今の売り上げは下がっているのは認めるが、過去の業績が悪いということが理由だった。結局のところ、政府は大企業のフォローは手厚いが、中小には冷たい。

もし、実際にここ数年、業績不振の会社がコロナ騒動で倒産の危機に陥っている中小企業があるとすれば、その経営者の不安は計り知れない。売上激減・景気低迷に加え、資金繰りの不安が強くなることとで、うつ病となり、それが自殺の大きな要因になることは十分に考えられる。

コロナウイルスのために自宅で孤立している若い女性
写真=iStock.com/bymuratdeniz
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景気が比較的よいとされる昨年までのデータ(内閣府と警察庁調べ)の推移をみると「経済・生活問題で自殺する人」は例年4000人前後おり、多い年には人8000以上になっている。おどすわけではないが、2020年に8000人に近い数の自殺者が出ても不思議でないのではないか。それは「コロナ関連死」といってもいい。

つまり、前出の週刊誌が書いていたように、もしコロナ感染死が数十人レベルでとどまるなら「10倍の自殺者」というのは決して大げさな話ではない。

感染者を減らすことはもちろん重要なミッションである。だが、それと同時に重視すべきは死者を減らすことだろう。死亡原因は、感染して重い肺炎になることだけではない。そのことを、政府はもっと配慮すべきだ。