感染症の専門家の意見だけを聞いていればいいのか

新型コロナから話はそれるが、たとえば、「善玉・悪玉コレステロール」だ。あまり正しく認知されていないが、これは体にとって善玉か悪玉かという分類ではない。動脈硬化の研究者や循環器内科の医師にとっての善玉・悪玉ということである。要するに善玉コレステロールの値が高ければ動脈硬化になりにくく、悪玉コレステロールの値が高いと動脈硬化になりやすい。

しかし、同じ医学であっても、循環器系とは異なるジャンルの免疫学者に言わせるとコレステロール値が高い人ほど免疫機能が高いということになる。つまり、がんや感染症になりにくくなる。新型コロナについても該当する可能性がある。おまけに皮肉なのは、悪玉と言われているコレステロールのほうがむしろ免疫機能を高めるとされていることだ。

3人の医療スタッフが頭をかしげている
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ホルモン医学の世界では、コレステロールがさまざまなホルモンの材料になるとされている。特に男性ホルモンをつくる主な材料は悪玉コレステロールである。男性ホルモンの値が低下すると性欲や意欲が低下するだけでなく、筋肉がつきにくくなり、記憶力も落ち、また人付き合いもおっくうになることが知られている。薬でコレステロール値を下げるとED(勃起障害)になるというのもよく聞く話だ。つまり、悪玉を含むコレステロールが少ないとさまざまな弊害が起こるのだ。

ある分野の「常識」は別の分野の「非常識」

わたしの守備範囲である精神科の領域でもコレステロール値が高いほうがうつ病になりにくいことが知られている。これも悪玉のほうがいいとされている。ついでにいうと、コレステロール値はやや高めの人が、いちばん死亡率が低いこともわかっている。

要するに、善玉コレステロール、悪玉コレステロールというのは動脈硬化についてのみ通じる話で、身体全体について言える話でない。にもかかわらず、コレステロールについて論じられる際に、ほとんどが循環器内科や動脈硬化の専門家の意見ばかりが取り上げられ、コレステロールが多いのはよくない、悪玉は特によくないという考え方が定着してしまった。

これと似たようなことが今回の新型コロナ騒動でも起こっているのではないだろうか。