中国はすでに8億人のデータを吸い上げている

しかしディディの最終的な目的は配車アプリで稼ぐことではない。毎日、4億人が利用するタクシーの走行データ、交通量のデータ、客の移動履歴を集め、そのビッグデータから自動運転のためのAI(人工知能)を育てようとしているのだ。

AIの大好物はデータである。実社会で使えるAIを育てるには、ラボの実験データではなく実社会の生のデータが必要だ。安全な自動運転AIを育てたいなら、皮肉なことだが、事故のデータが多いほど好都合だ。「こうした条件が重なると事故が起きる」とAIが学習するからである。

中国のデジタル実装はタクシーだけにとどまらない。スマートフォンで料金を支払うモバイル決済の規模は200兆元(13兆円)を超え、「道端の物乞いもQRコードをかざす」と言われている。モバイル決済では「アリペイ」のアリババグループと「ウィーチャットペイ」のテンセントが圧倒的なシェアを持ち、8億人のネット利用者から毎日、膨大な消費データを吸い上げる。広大な中国が丸ごとスマートシティと化しているといってもいい。

日本のネット政策は規制が多すぎる

中国のプラットフォーマーが膨大なデータを吸い上げられるのは、2015年に中国政府が導入した「インターネットプラス」という政策によるところが大きい。インターネットプラスとは、製造業、農業、金融、医療といった既存の産業とインターネットを融合させる政策で、そうした新しい事業の立ち上げを「問題があった場合のみ規制する」と原則自由にしたことに意味がある。

日本のネット政策はまだ「原則禁止」であり、政府の認可があった分野や特例的に実施を認められた「特区」でしか事業が立ち上げられない。配車アプリやモバイル決済の普及が遅れているのもこのためだ。

規制だらけの窮屈な日本で少しでも多くデータを集めるために生まれたのが、今回のトヨタとNTTの提携かもしれない。しかし数億人の日々の営みから集まる中国のデータ量や世界中に億人単位のユーザーを持つGAFAのデータ量に比べると、トヨタとNTTの小さなスマートシティから集まるデータ量は、やはり「おままごと」としか言いようがない。2000億円の相互出資で「本気度」を示したつもりかもしれないが、竹槍で戦闘機に向かうような虚しさを覚える。

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