トヨタとNTTはこれらのスマートシティを、経済における価値がモノからデジタル・データに移行するための「社会実装の場」と位置付けている。それぞれのスマートシティに相互乗り入れすれば「得られるデータは相乗倍になる」という理屈だろう。

「KDDIの大株主」がなぜ手を組んだ?

トヨタは2018年、ソフトバンクと自動運転の共同出資会社を設立している。さらにトヨタは現在もKDDI株の約12%を保有し、京セラに次ぐ第2位の大株主でもある。今回のNTTとの資本業務提携で、3大キャリア全てと協力関係を築いたことになる。「クルマを作るだけでは生き残れない」という豊田社長の本気の現れにも見えるが、「とりあえず全部やっておこう」という総花的なやり方にも見える。

電気自動車が自動運転で走る時代に競争力の源となるのは車そのものの性能ではなく、システム全体を動かすプラットフォームとそれを日々改善するためのビッグデータの量と解析力だ。トヨタの危機感が本物なら、3大キャリアのどれかを買収して、自動車メーカーの旗を降ろす位の大胆な戦略転換が必要だ。箱庭での「実験」など、気休めにしかならない。

さらに言えば、デジタル資本主義時代の主役である「プラットフォーマー」(GAFAやアリババ、テンセントといった中国のネット大手)が定義する「社会実装」に比べると、数千人の社員と取引先が対象のトヨタやNTTの試みは「おままごと」の域を出ない。

配車アプリでウーバーの上をいく「ディディ」

例えば、配車アプリ大手「滴滴出行(ディディ)」は中国の400都市で4億人にサービスを提供している。ディディが普及したせいで、荒っぽいことで有名だった中国のタクシーがこの数年、格段に安全運転になった。利用者がドライバーを評価する仕組みは配車アプリの元祖「ウーバー」にもあるが、ディディのシステムはさらにその上をいく。

利用者による評価は、料金をディスカウントしたり現金を渡したりして評価を買う賄賂が成立する。しかしディディの車両にはGPSとジャイロセンサーがついており、回り道をしたり、目的地への到着を急いで急発進、急停止といった乱暴な運転をしたりすると、ドライバーの評価が下がる。ディディには普通のタクシー、快速タクシー、プレミアタクシー、ラグジュアリータクシーという4つのカテゴリーがあり、ポイントがたまるとより多く稼げる上位カテゴリーに移れる。こうしたシステムにより、これまで一人でも多くの客を運ぼうとしていた中国のドライバーが、あっという間に安全運転をするようになったのだ。