“飲食宅配サービス”がにわかに活況
封鎖措置初日の18日朝、通常通り店を開けたチキンライス屋のオーナーは、「客足が遠のくかと思いきや、そんなことはない。いつもならこの時間にはほとんど注文は来ないが、食いっぱぐれる心配をしているのか、すでに20食ほどのオーダーが入っている。デリバリーにも対応しているし、お客さんが来たら車まで届けるサービスもしているよ」と話していた。
クアラルンプール市内および近郊の道路は普段、悪名高い大渋滞でクラクションが鳴り響くのが常であるが、この日は、朝から嘘のように車が減り、代わりに目立ったのは飲食宅配のバイクだった。
飲食宅配代行大手、グラブフードの運転手は、「朝10時から働いているが、2時間ですでに6件の注文を受けた。通常よりハイスピードだよ」と満足げだ。もちろん、マスクをして、配達が終わるごとに石鹸で手洗い、こまめに消毒をすることが会社から求められているという。
首相「宅配サービスを使用して家で食べてください」
ちなみにムヒディン首相は18日8時に行った緊急演説で、「外では飲食せず、“宅配サービス”を利用して家で食べてください。屋台などで友人らと談笑するのは差し控えましょう」と国民に向けて呼びかけている。
事実、2012年にマレーシアで生まれた配車サービス「グラブ」のアプリは、ダウンロード数1億4400万超で、東南アジアで稼働するスマホの4台に1台にインストールされている計算になる。またライドシェアの運転手やフードデリバリーの配達人として900万人以上がグラブと契約しており、都市部を中心に急速な広がりを見せている(日経コンピュータ 2019年6月13日号)。
一方で、こんな悲しい声も聞こえてきた。
外国人労働者を多く抱えるマレーシアでは、主にバングラデシュやミャンマー、パキスタンなど途上国からの労働者が飲食店で働いているケースが多い。クアラルンプール近郊にあるスペイン料理店で働く25歳のバングラデシュ人ウエーターは、嘆き口調でこう話した。
「明日からうちのレストランも営業は2週間停止です。持ち帰りやデリバリーの注文には応じますが、それに対応する店員は午前と午後に分けて1人ずつだけ。僕は2週間、完全に仕事なしです。明日から何をしよう……起きて寝て、稼ぐお金もない。毎月ほぼ全てのお金をバングラデシュにいる両親と妹に送っているのに、今月の仕送りは本当に少なくなりそうで困っています。僕みたいな労働者は正直たくさんいます。この2週間突然、仕事がなくなった分の給料の保証は何もありません」
アジア初の「事実上の国境封鎖」と「全土での外出禁止」は、まだ始まったばかりだ、3月31日にこれを本当に解除できるのか。長引いたときにどんな影響が出るのか。今後の展開を注視していきたい。