「母乳の質」という言葉は疑ったほうがいい

母乳やミルクの周りは、お母さんたちを惑わす情報が特に多いように見えます。なぜかというと、ひとつには日本に母乳の専門家が少ないという事情があります。専門家がいないわけではないのですが、マイナーな存在でしょう。

産婦人科医はお産が無事に済んで母子を健康に送り出すまでが仕事で、小児科医は赤ちゃんを診てもお母さんを診察することはありません。助産師には医学的根拠ではなく、個人的な経験や意見に基づいて母乳についてアドバイスしている人が多くいます。だから、正しい情報が伝わりにくいのです。

もうひとつ、ネットメディアが根拠のない情報を広めているのも問題です。特に育児中のお母さんが主な読者層である子育てサイトでは、根拠のない記事が量産されています。そうしたところはたくさんの記事を載せていますが、「母乳の質」という言葉が出てきたら、サイト全体の質を疑っていいくらいだと私は思っています。そのほか以下のような見出しをよく見ると思いますが、すべて根拠はありません。

「ママが食べたものが母乳の味にも直結! おいしい母乳のつくり方」
「母乳の質が悪いと乳児湿疹がひどくなり、そのままだとアトピー性皮膚炎になる」
「餅や油もの、ケーキを食べると乳腺炎になる」
「母乳量を増やすハーブティーの選び方」

授乳中の食生活を変えても、母乳の栄養素は変わらない

母乳がおいしくなかったら、質が悪かったら、赤ちゃんによくないのではないかと心配になりますね。けれども、こうした記事では味や質を語るわりに、母乳の成分分析をしているものを見たことがありません。一度でもしてみたら、お母さんが食べるものと母乳の成分は直接関係しないことがよくわかるはずです。

私たちが口から食べたものは、まず消化されて小さくなります。そのうちの糖とアミノ酸は消化管から血管を通って肝臓で取り入れられるように分解され、肝静脈を通って心臓に流れます。脂肪は再合成されてリンパ管から胸管を通り静脈に入って心臓へ、そして全身をめぐります。

一方、母乳は、血液を材料に乳腺体で作られます。つまり、消化された栄養を運ぶ管と母乳を作る場所は、直接つながっていないのです。

厳格なベジタリアンの女性が長期にわたって動物性タンパク質を摂らなかった場合、母乳中のタンパク質やビタミンB12などが低下することはわかっていますが、授乳期間の数カ月の食生活を変えても母乳の栄養素は変わりません。

乳児湿疹は、赤ちゃん自身のホルモンが原因でできるものなので、母乳は関係ありません。お母さんが食事を変えても、乳児湿疹は増えたり減ったりしません。