2019年、政府は「子連れ出勤」を後押しする方針を打ち出した。だが、小児科専門医の森戸やすみ氏は「子どもの身になって考えられたものではなく、保護者も困る方法だ。それよりも先に、現実的な施策がある」と指摘する――。

※本稿は、朝日新聞の医療サイト「アピタル」の連載をまとめ、加筆した、森戸やすみ『小児科医ママが今伝えたいこと! 子育てはだいたいで大丈夫』(内外出版社)の一部を再編集したものです。

オフィスで働く息子とシングルマザー
写真=iStock.com/alvarez
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日常的な「子連れ出勤」はムリがある

気がつけば、いつのまにか「保活ほかつ」という言葉が定着していました。子どもを保育園に入れるための活動をいいますが、都市部では慢性的に保育園が足りておらず、認可はもちろん無認可も見学して申込みをしても入れず、待機児童になってしまうことが多々あります。そうすると父親か母親のどちらかが育休を延長して自宅で子どもの世話をすることになるわけですが、だいたいは育休をとりやすい母親が復職できないということになってしまいます。これを“よくある話”にしておいてはいけませんよね。

そこで、2019年に政府が「子連れ出勤」を後押しする方針を打ち出しました。でも、これは保護者と子どもにとって、現実的でベストな解決策なのでしょうか?

ときと場合によって、子連れ出勤をしなくてはいけないことはあるかもしれません。

たとえば保育園に通っている子でも、病気になり、回復はしたけど登園基準には満たないときなどは預け先がなくなってしまいます。とても困りますよね。こんなとき、子どもを連れていっていい職場だと、多くの保護者が助かると思います。

ただ、それが日常的になるとどうでしょう? まず、当たり前のこととして、小さな子どもは長時間じっと静かにひとりで過ごすことができません。しつけをする・しないという問題ではなく、発達上どうしても大人と同じようにはできないのです。年齢にもよりますが、仕事の場所だろうがなんだろうが、騒いだり、泣いたり、走り回ったり、遊んでほしいと要求したりします。果たして、それらの子どもの要求を満たしながら、まともに仕事を進めることができるでしょうか?