子育てが「女性だけのもの」にされている
私がもうひとつ気にかかっているのは、子どもを産み育てることにまつわる問題がすべて“女性だけのもの”とされている点です。
政府が子連れ出勤を打ち出したとき、当時の少子化担当大臣は「赤ちゃんの顔が幸せそう。乳幼児は母親と一緒にいることが何よりも大事ではないかと思う」と語ったと報道されました。その後、「母親だけを対象としたものではない」と釈明したようですが、当然ですよね。乳幼児は父親ではなく母親と一緒にいるべきという考えは、今の時代に合いません。両親という言葉は親が2人いるという意味で、保護者としての責任は等しいものであるべきです。
育児のほとんどを担ってきた女性の中には、政府の見当違いな方針や政治家の放言を「またか」と思った人が多いと思います。無力感に陥りますよね。
私は、男性がもっと育児を積極的にやるようになれば、育児環境が劇的に改善すると考えています。「子どものことは母親」というつもりが父親側になかったとしても、実情を知らなければ当事者意識は持てません。保護者としての当事者意識を持った男性が、一緒に問題解決にあたっていくことが不可欠なのです。
子連れ出勤を推し進める前に、子どもの顔を見る時間も持てない長時間労働や、ベビーカーはもってのほかの満員電車など、改善しなければならないことはたくさんあります。
働き方が変われば、育児はたしかに変わります。それは、社会のあり方全体が変わることでもあると思うのです。
「今日、一睡もしていません」と語ったお父さんの姿
私は乳幼児健診のとき、最後になんでも自由に聞いていただけるようなオープンクエスチョンをしています。あるとき、「今、お子さんのことで聞いておきたいことや心配なことはありますか?」と尋ねたところ、「介護の仕事の夜勤明けなので、今日、一睡もしていません」と語り始めたお父さんがいました。
大変ご苦労をされている様子でした。公立保育園にお子さんを入れることが認められず、職場の保育室に預けて働いているそうです。夜勤のとき、子どもたちは夜を眠って過ごしますが、お父さんは夜を徹して働きます。夜が明けて家に連れ帰ると、今度は子どもたちの世話に加えて家事があります。眠くて仕方がないのに眠れない……。
お母さんは同じ職種で、職場は別。そちらには保育室がないので連れていくことができず、お父さんとお母さんは入れ替わるようにして出勤しているのだと話してくれました。疲労の色が濃いながらも淡々とした口調で、「自分がうっかり眠ってしまったときに、子どもたちが危険なことをしないかが心配です」と語るお父さんからは、真剣に子育てをしている様子が伝わってきました。