1970年代は「粉ミルク」が先進的だった
1970年代、第二次ベビーブームが起きたときに、粉ミルクの消費量はピークを迎えました。もちろん、赤ちゃんの数が多かったというのもありますが、当時は「粉ミルクを赤ちゃんに与えるのは、母乳育児よりも先進的かつ合理的で、栄養面からも好ましい」と考える人が多かったのです。
今では「母乳のほうがいい」という価値観が主流です。たしかに母乳には、免疫グロブリン、サイトカイン、成長因子といったさまざまな成分が含まれているため、免疫機能が未熟な赤ちゃんに飲ませることで感染症にかかる確率を低くし、乳幼児突然死症候群(SIDS/シッズ)などの病気も予防できる可能性があります。母乳は赤ちゃんの消化吸収能力や腎機能に最も適していることもわかっています。また、母乳育児は、母親側にもメリットがあり、子宮の回復や体重減少を助け、月経の再開を遅らせます。
一方で、ミルクに関しては「ミルクで育つとブヨブヨに太る」「腎臓に負担をかける」など事実と異なることが広められています。母乳のメリットが盛んに伝えられ、ミルクのデメリットが大げさに伝えられがちなのが、令和時代の現状です。
「母乳じゃなきゃダメ」と思い込むのは危険
でも、考えてみてください。第二次ベビーブームのときに生まれ、粉ミルクを最も飲んでいた世代は現在40代後半になっています。問題なく育っていますよね。衛生面で問題のない水が手に入る日本で、現在の知識と技術で可能な限り子どもによい栄養を配合している粉ミルクや液体ミルクを使うことを、悪く言う必要はどこにもありません。
この極端な状態で追い詰められるのは、ほかならぬお母さんたちです。多くの母親は産後すぐから頻回授乳することで、4日目頃から徐々に母乳の分泌量が増加し、2~3週間後までに安定してくるといわれていますが、スムーズに出る人ばかりではありません。お母さん自身の体質、体調や心理状態、授乳指導のされ方によっては赤ちゃんが育つに十分な量の母乳を出せないこともあります。
そんなお母さんが「母乳じゃないとダメ」と思い込んだとします。世間でいわれているありとあらゆる方法を試してみて、それでも出ない……、こうなると産後うつや育児ノイローゼ、疲労による体調不良が心配になります。また、母乳が足りない場合、ミルクをあげなければ赤ちゃんが栄養不足や脱水や低血糖になる危険性もありますから、注意が必要です。あまり頑なに「母乳でないとダメ」だと思い込むのは危ないですね。