「消費税率の引き下げ」の議論はあり得なかったが…

そこで浮上しているのが消費税減税論だ。消費税は1989年に導入されて以来、約30年の間に3%、5%、8%、10%と税率が上がってきた。1度も下がっていない。

それは、財務省が消費税減税に絶対反対の立場を貫き、多くの自民党議員も財務省に同調しているからだ。少子高齢化が進み社会保障費の増大が避けられない状態の中、安定的な税源である消費税は、税率を上げる議論をすることはあっても、下げる議論はあり得なかった。

消費税は税率を上げる際、大変な政治的エネルギーを要してきた。1度下げると、再び上げるのは途方もない苦労がいる。それは回避したかった。

しかし、それはコロナショック前の話。リーマンショック以上といわれるピンチの今、消費税減税もタブーとせずに議論すべきだという意見が高まりつつある。

実質的には「消費税を0%にする」という意味になる

自民党の安藤裕衆院議員ら若手有志は11日、西村康稔経済再生担当相と面会し「消費税は当分の間軽減税率を0%とし、全品目に適用する」よう提案した。形式的には軽減税率の拡大だが、実質的には「消費税を0%にする」という意味になる。

「消費税0%」は、昨年の参院選、れいわ新選組の山本太郎代表が主張したことで知られる。当時は他の野党でも荒唐無稽と受け止められたものだ。しかし新型コロナ問題が起きてから一笑に付される対象ではなくなってきたようだ。

安藤氏ら以外にも、自民党若手・中堅を中心に消費税率の一時引き下げ論が高まってきている。

安倍氏は14日の会見で消費税減税について問われ「自民党の若手有志の皆さまからも、この際、消費税について思い切った対策を採るべきだという提言もいただいている。今回(昨年10月)の消費税引き上げは全世代型社会保障制度へと展開するための必要な措置ではあったが、今、経済への影響が相当ある。こうした提言も踏まえながら、十分な政策を間髪を入れずに講じていきたい」と発言。わざわざ若手の提言を口にして思わせぶりなことを言っている。

安倍氏はもともと財務省の「増税史観」に懐疑的で、消費税率アップを先送る決断も経験済みだ。自民党内では消費税増税には最も慎重な考えの1人ともいえる。もし、昨年の今ごろ「新型コロナ」がまん延していたら、昨年10月の「消費税10%」は先送りしていただろう。ならば、時限的に8%に戻す選択をしてもおかしくない。