養命酒は400年以上前から続く生薬配合の薬酒だ。胃弱や冷え性に悩む人々に支持されてきた。その工場が、長野県駒ケ根市、中央アルプスを背にした標高約800mの高原にある。

「健康の森」は2005年にできた施設で、工場見学や森の散策コース、カフェ、売店などがひとつになったもの。今では年間10万人の見学者が訪れる。

「健康の森」で働く女性たちの仕事は見学者をもてなすこと。彼女たちは毎日、朝礼を行い、「もてなし」について真剣に考えている。その成果が「健康の森8カ条」である。

(1)私たちは常に笑顔と会話と我慢を忘れません
(2)私たちは挨拶は手をとめ、アイコンタクトで行います
(3)私たちはお困りの方へはこちらから声をお掛けします
(4)私たちは分らない質問は、お帰りになるまでに情報収集し、お答えします
(5)私たちはゴミとクモの巣はすぐに除去します
(6)私たちはお見送りの後のトイレ点検をします
(7)私たちは椅子とテーブルは常に定位置に整えます
(8)私たちはお客様情報を共有化し連絡事項を確認します

小さな“気付き”を積み重ねた「8カ条」を全員で唱和。お客をもてなす心を一つにする。

小さな“気付き”を積み重ねた「8カ条」を全員で唱和。お客をもてなす心を一つにする。

朝礼では毎日、この中のひとつを唱和している。8カ条は彼女たちが気づいたこと、他の店で感心したサービスから導き出した、手作りのルールである。たとえば、「クモの巣の除去」などは自然の中にある工場ならではだ。

「もてなしのルール」を持つ企業は多いが、たいていはコンサルティング会社が用意したり、リッツ・カールトンのサービスルールをアレンジしたものだ。その点、「健康の森8カ条」は全員が知恵を絞り、実感を反映したもの。スタッフの一人は「試行錯誤しながら作りました」と言っていたが、お仕着せのそれよりも価値があると思う。

(木下徳康=撮影)