パナソニックの朝会(朝礼)では、社員が自由なテーマでスピーチをする「所感」が行われている。発案者は創業者の松下幸之助である。往時、松下幸之助は所感には2つの効果があると語っていた。

・社員が人前で話す訓練になる。
・多様な意見や物の見方を分かち合える。

話す内容は家族の話などのプライベートなものから、大震災に関する提言まで、内容は広範囲である。

ある日、東京本社、広報グループで行われた朝会の所感担当は香港系カナダ人のキャシー・リューさん。その日はちょうどグローバル化を意識した「多様性月間」だったため、リューさんは英語でスピーチをした。

時間は5分程度。彼女はわかりやすい英語で、インドのテレビ局員に同社の仕事を紹介するプレスツアーを行ったことを語った。何人かは頷きながら聞いており、残りはなんとなくわかったといった様子だった。

リューさんに日本企業の朝礼をどう感じているのか聞いてみた。

取材当日は、中国語、英語、日本語の3カ国語を使いこなす香港系カナダ人社員が英語でスピーチ。

取材当日は、中国語、英語、日本語の3カ国語を使いこなす香港系カナダ人社員が英語でスピーチ。

「最初はヘンな習慣だなと思った(笑)。初めて参加したのは研修先の工場で、男性が整列して社歌を歌う姿は軍隊みたいだと感じました。でも慣れてくると朝会は価値あるコミュニケーション手段だと思うようになりました。日頃交流のない人でも、所感から家族想いの人だとわかるなどの発見があり、面白いです」

彼女のような発見をしている人は数多くいるに違いない。なぜなら同社は世界100カ国に及ぶ事業所で朝会を実施しており、約33万人の多様性に富んだ人材が毎朝、所感を分かち合っているのだ。グローバル企業にとって、日本型朝礼は奇妙に感じるところもあるだろうが、体験する価値のあるコミュニケーション・アクティビティではないか。

(澁谷高晴=撮影)