トラックの「車間を空けすぎる問題」
こうしてノロノロ走るトラックの中には、前の車両と大きく車間を空けて走るケースもあり、一般車から更なるひんしゅくを買うことがあるのだが、実はこの「車間」にもちゃんと理由がある。「荷崩れの回避」だ。
「荷崩れ」とは、トラックの荷台に積んだ荷物が、振動や衝撃によって崩れてしまうこと。
ほとんどのトラックドライバーは、それまで培ってきた経験をもとに、積んでいる荷物の重さや積み方、道路状況、ブレーキの利き具合などから制動距離(ブレーキが利き始めてからクルマが完全に停止するまでの距離)を感覚で把握し、この「荷崩れ」を引き起こさずに止まることができるスピードと車間で走っている。
つまり、その大きく空いた車間は、チンタラ走ったがゆえの空間でも、他のクルマに前を譲るためのものでもなく、荷崩れせず安全に止まるためにトラックが必要としている大事な「パーソナルスペース」なのだ。
そんなスペースに、突然クルマが割り込んでくれば、当然トラックは安全な車間が保てなくなり、やむを得ず急ブレーキを踏むことになる。急ブレーキを踏んだトラックは、結果的に「前方の割り込み車との衝突」だけでなく、「後方の積み荷の荷崩れ」の危険性にも対峙することになるのである。
荷崩れが引き起こす最悪な2つの事態
こうして急ブレーキを踏まざるを得なくなった際、トラックドライバーの脳裏には一瞬のうちに“荷崩れが引き起こす最悪な2つの事態”がよぎる。
一つは、「破損した積み荷の賠償責任」だ。
突然の割り込みに急ブレーキを踏み、そのクルマとの衝突を回避できたとしても、運んでいる大事な積み荷が荷崩れを起こして破損すれば、その後、トラックドライバーは「損害の賠償」という重い負担を背負うことになる。
ドライバーはハンドルを握って走っているだけが仕事ではない。彼らの本当の役割は「トラックの運転」はもちろん、「荷物を安全・無傷・定時に届けること」。こうした立場から、荷物が破損した際の賠償は、トラックに荷物を積み込んだ時点で、「運ぶ側」が負わされることがほとんどなのだ。
運搬する荷物の中には、筆者が積んでいた金型や、慎重な扱いが求められる精密機械など、その額が「億」を軽く超えるものもあり、破損した際の損害額も巨額になる。そのため、危険運転を繰り返す悪質な一般ドライバーによって引き起こされる荷物事故を少しでも食い止めようと、最近ではトラック車内にドライブレコーダーを搭載し、その車両を特定しようとする運送業者も増えてきている。
もう一つの“最悪の事態”は、「身の危険」だ。
急ブレーキを踏んだトラックは、前方のクルマとの衝突を回避できたとしても、後ろに積んだ荷物が「慣性の法則」によって前になだれ込んでくることで、運転席が潰れたり、バランスを崩して横転したりする危険に晒される。