田辺三菱製薬やオリックスが巨額買収

2016年の終わり頃からイスラエルに着目するようになった日本企業だが、2017年以降はそれまでの単なる視察ではなく、出資や協業に向けた提携に至るケースが増えてきた。

大型買収が目立つようになったのはこの頃からだ。2017年には田辺三菱製薬が米ナスダック市場に上場していたニューロダーム(Neuro Derm)を11億ドル(約1200億円)で買収した。同社はパーキンソン病治療薬を開発しているバイオベンチャーである。欧米での発売を計画しており、海外事業の拡大を狙う田辺三菱が目をつけた。

同じく2017年にオリックスが約6億2700万ドル(約710億円)を投じて株式の22.1%を取得した米ネバダ州の地熱発電会社オーマット・テクノロジーズ(Ormat Technologies)も実はイスラエル発の企業だ。

地熱発電設備の開発・製造だけでなく、自ら地熱発電事業まで手掛ける世界唯一の企業だという。1965年創業の同社は、ニューヨーク証券取引所だけでなく、テルアビブ証券取引所、フランクフルト証券取引所にも上場している。

そのほかにも、味の素が同年、ヒノマン(Hinoman)に1500万ドル(約17億円)を出資した。ヒノマンは高たんぱくで体内消化・吸収効率に優れた栄養価値の高い水草の一種「マンカイ」(Mankai)を手掛けるが、味の素はその素材の独占販売権を得た。

このほか、シリコンバレーと同様、イスラエルでも存在感を発揮しているソフトバンクグループのソフトバンンク・ビジョン・ファンドは、イスラエル生まれの不動産仲介会社コンパス(Compass)に4億5000万ドル(約490億円)を投じた。コンパスは不動産の営業向け業務支援システムを手掛けており、不動産テック企業の一角として世界中の注目を集めている。

オリンパスも2018年、泌尿器系疾患向け医療機器の製造・販売を手掛けるメディ・テート(Medi‐Tate)に出資している。

2017年以降、日本企業が出資や提携をした企業は医療、フードテック、エネルギー、医療機器と多岐にわたる。

イスラエルは「アジアの窓口」として日本に魅力

私はジャコーレを2017年に設立して以降、イスラエルのスタートアップと日本企業の「橋渡し役」をしてきた。そんな中で感じたのは、2016年以降、多くの日本企業がイスラエルを訪れているが、特に強い危機感を抱き、積極的に協業相手を模索しているのが製造業であることだ。

製造業は主に2つの課題によってオープンイノベーションの必要に迫られている。1つ目は少子高齢化による働き手不足。特に工場などの製造現場における人不足は深刻で、これまでと同じように人の手で精密な部品を作ったり、技術を伝達したりするのは難しくなっている。

そのため、彼らは製造や検査などの工程をAI(人工知能)で代替するロボティクス技術を貪欲に探し求めている。

もう1つの課題は産業構造の変化だ。EVに切り替われば不要な自動車部品が出てくるように、デジタル化によって産業自体がなくなるという危機感は強い。

自動車業界では完成車だけでなく、部品メーカーなどがこぞってイスラエルのAIやビッグデータに関する技術を取り入れようとしている。