「旅行」「不動産」「金融」も期待を寄せる
製造業以外にも、旅行会社など内需産業の中にも、人口減少や新しい技術の出現で市場が縮小したり、プレーヤーが一変したりするという強い危機感を抱く企業は少なくない。
例えば、国内が主戦場の不動産は今後、仲介件数の減少は避けられない。そのため、大手のデベロッパーの一部は、不動産情報を売買するような新しい市場を使ったり、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などの新しい技術を取り入れることを検討している。
激しい競争にさらされている金融も、同様にイスラエルの技術に大きな期待を寄せる。
銀行はこれまで、平均寿命などの一般的な情報をもとに、借り入れ時の利率などを決めてきた。だが、今後ビッグデータの解析や活用が進めば、個人の健康管理状態やライフスタイルに合わせて利率を変えることもできるようになるだろう。
保険や銀行などの金融企業はイスラエルのスタートアップが持つこうした技術への関心を高めている。
こうした背景から、2018年の日本企業によるイスラエル企業の買収件数は22件と、10年前に比べて3~4倍に増えた。
「中国より日本」の裏事情
日本ではイスラエルへの関心が高まっているが、そのイスラエルのスタートアップは日本企業をどう評価しているのか。シリコンバレーでは残念ながらスタートアップにとっての協業相手として決して優先度が高いとは言えない日本企業だが、イスラエルでは少し事情が異なる。
もちろん「一筋縄でいかない」のは確かだが、いくつかの理由によってイスラエルのスタートアップにとって日本企業は魅力的に映る。
まず、イスラエルは人口が850万人しかいないため、自国だけでビジネスを展開しようというスタートアップはほとんどない。最初から世界市場を目指している彼らの眼には、1億2600万人という人口を抱える日本は魅力的な市場に見える。
また、アジアへの窓口としても日本は重視されている。アジアの大国である中国は経済成長率や人口から見れば期待を寄せる市場だろう。欧州には中国をアジア進出への足掛かりにしようと考える企業は多い。
だが、習近平国家主席と米トランプ大統領は2018年以降、貿易戦争を繰り広げている。そうした状況下にいて、米国と密接な関係にあるイスラエルは最先端の技術を中国には提供しにくい。このため、「アジアの窓口」として中国ではなく日本を選ぼうと考えるイスラエル企業は少なくないのだ。
しかも、自動車や電機など、日本の大企業と組めば、アジアどころか一気に世界中でビジネスを拡大するチャンスもある。