マラソンで意識しているのは「タイムではなく順位」の真意

東京マラソンの2日前に行われたプレスカンファレンスで、大迫はいつも通りのコメントを残している。目標タイムを尋ねられると、前年に続いて「2:??:??」とボードに書き込んだ。

写真提供=ナイキ
大迫傑

「いつもの大会と同じように、なるべく誰よりも速く走るということに集中しているので、タイムはあまり考えていないですね。気象条件が良くて、ペースが良ければいい結果(タイム)が出る。やってきたことはちゃんとやってきたので自分の力を出すだけ。なるべくトップ争いに絡む努力をしていくことを目標に頑張りたい」

ちなみに設楽悠太(Honda)は自己ベストを1秒上回る「2:06:10」で、最後までトップ集団に食らいついた井上大仁(MHPS)は日本記録を1分20秒上回る「2:04:30」と記している。

ふたりの数字はともかく、ともに頭のなかには日本陸連の設定記録であると同時に、大迫が持つ日本記録を1秒上回る「2時間5分49秒」というタイムがあったのは間違いない。それが東京五輪代表をつかむ唯一の方法だからだ。

一方で大迫はMGC3位のアドバンテージがあったとはいえ、記録を意識していなかった。そもそもマラソンはいつも「トップ争い」ができるレースを選んできた。その結果は、ボストン(2017年4月)、福岡国際(同年12月)、シカゴ(2018年10月)と3レース連続の3位。タイムも2時間10分28秒、2時間7分19秒、2時間5分50秒とステップアップした。

東京マラソンで一時13位に沈みながら日本新記録で出せたワケ

前回の東京(2019年3月)は冷雨の影響もあり途中棄権で、MGC(2019年9月)は3位に終わったが、今回の東京でも意識したのは「順位」だった。

実際のレースでも井上は第1集団を、設楽は第2集団を瞬時に選んだのに対して、大迫はどちらでいくべきか「流れ」を感じながら、第1集団の後方に陣取った。決して井上を意識しての選択ではなかったという。

「誰かを意識してというよりも、全体の大きな枠組みでレースをとらえていました。序盤から少しペースが速いなとは感じていたので、(体力が)一杯いっぱいになってトップ集団から離れたというよりは、自分のリズムで走ることを考えました」

22km過ぎにトップ集団から後れるも、単独でレースを進めるスタイルに変更する。その結果、30km通過時は13位に沈んだ。先を行くトップ集団は自分の日本記録を上回るペースであり、ライバルの井上はその集団にいた。このままいけば男子マラソン代表が井上となる可能性があった。

しかし、大迫は35kmまでの5kmを出場選手最速の14分56秒で走破する。その間に井上も抜き去り、大きく引き離した。最後は全体の4位にまで順位を押し上げ、2時間5分29秒の日本記録を打ち立てたわけだ。

「自分が速くなっていく。それを追求することだけを考えています。今回は4番だったので、まだまだ改善点はありますが、現時点で東京五輪に近いという存在になれたので、今後も自分を信じて準備をしていきたいと思います」