悪いコストとよいコストを峻別
山田の「人の行く裏に道あり、花の山」流の考え方は、コストの本質にまで及ぶ。通常「コスト=悪」と考えられがちだが、山田は「かけるべきよいコストがある」と考え、それを社員に徹底させている。
数量ベースの市場規模は大きいものの、競争が厳しい製品ほど、コストダウンで価格競争力を図ろうとする。しかし、そのなかで顧客ニーズへの対応が次第に忘れられていく。そこで山田は、「そうした売れるものほどコストをかけるべきだ」と社員にハッパをかける。
その結果、誕生したのがアルミ箔のテープが張られたスイッチボックスだ。樹脂製のスイッチボックスは一度壁に埋め込んでしまうと、金属探知機を使ってもどこにあるのかわからない。そこで探知機が使えるようカバー用のテープをアルミ箔に替えることを、社員が考えついた。アルミ箔代、加工代という小さなコスト増をも嫌う大手メーカーでは、このような発想はまず生まれてこない。
現在同社が扱っているスイッチボックスのアイテム数は85。しかし、売れ筋の定番は3つのみ。なかには1年間で数個しか出ないものもある。それをつくるための金型は何百万円もかかる。しかし、決して打ち切りにはしない。「特殊な品物を買ったら、仁義を感じて定番のものも買ってくれる。トータルで黒字になればいい」と山田はいう。また、同社ではメセナの一環としてボリショイバレエ団などを招聘しているが、これもよいコストの1つなのだろう。(文中敬称略)