【ここがクリエイティブ
@プレセナ・ストラテジック・パートナーズ代表取締役 高田貴久】
「日本一の倹約経営」という言葉だけを聞けば、「あんな活動はやめろ」「こんな経費は認めない」といった否定的な言葉が会社を飛び交う、暗いイメージを持ちそうになります。しかし、未来工業の場合は「こんな働きやすい会社はない」という社員の言葉に表れているように、そうした様子は微塵もうかがえません。
山田相談役は劇団で舞台監督を務めていたそうです。舞台監督は、限られた収入をやりくりしながら、役者から大道具・小道具担当まで全劇団員の力を引き出し、観客を魅了する「演劇」を提供します。それは、社員のやる気を高め、顧客に満足をもたらす「製品」を提供する、会社経営にも通じます。「全体を見ながら人を動かす」舞台監督としての経験が、経営にも生かされているのでしょう。
山田相談役の話はまさに「全体最適とは、必ずしも部分最適の積み上げではない」ことを表しています。例えば、「コスト削減のために人員を減らしたつもりが、過剰労働によるミスが原因で不良品クレームが続出し、逆に大きなコストとなってしまう」ことがあります。会社経営においては、個別には「よかれ」と思った取り組みが、全体で見るとマイナスの結果を生んでしまう場合があるのです。
普通の会社とは違って、同社では年間数個しか売れない製品でも、他の製品も含めた全体で見ればプラスとなるため、製造中止にしないそうです。山田相談役の判断は、往々にして「世間や業界とは反対」となるそうですが、他の人には見えない、高い視座からの「全体最適」を念頭に置き、「部分」の判断をしている結果ではないでしょうか。
(熊谷武二=撮影)