新たなビジネスモデルでGMに勝ったテスラ社

その企業とは創業からたった8年で、アメリカ自動車産業界で長らく首位に立ち続けたGMを抜き、時価総額で全米1位、全世界的には6位に躍り出た「テスラ・モーターズ」社だ。

テスラ・モーターズは、イーロン・マスク氏によって設立された、自動運転型電気自動車専門のベンチャー企業で、その時価総額は年により多少の上下はあるものの、2017年の時点ですでに日本の日産より上位にある。

テスラ社が並みいる自動車会社の中で突出しているのは、その「戦略」の独自性にある。もっと言えばテスラ社は、まったく新しい経営形態を実現した企業なのである。

テスラ社は自動車メーカーではあるが、通常の自動車メーカーとは大きな違いがある。ディーラーを通さず、自社が運営する直営の販売会社を通した直販体制を採っているのだ。

従来の自動車メーカーがディーラーと組むのは、「ディーラー自身が営業を代行してくれる」「メーカーが作った車をタイムロスなくディーラーが買い取ってくれる」というメリットがあるからだ。それによってメーカーは、営業マンを抱える必要がなく、資金の早急な回収ができるとともに、在庫を抱える必要がない。

理由はコスト削減だけではない

消費者にとってはメーカーと消費者の間にディーラーが入るということは中間マージンを取られることを意味する。つまり、それだけ車の価格が上がるのだ。それを嫌ったテスラ社のイーロン・マスク氏は、ディーラーを通さず原則直営店のみで販売する直販システムを採用した。

これによりテスラ社の「モデル3」は500万円程度で販売されることとなり、一般的なサラリーマンにとっても車を買う際の選択肢の一つとなった。

マスク氏が自動車の低価格化を図るための徹底したコスト削減策は、実はこれだけではない。2019年3月、マスク氏は直営販売店さえも一部の店舗を除いて廃止し、インターネット販売に全面的にシフトすることを発表した。テスラ社の新車は今後、テスラ社のホームページ上でのみ買える形にするというのだ。

ここで重要なのは、テスラ社は車の販売会社でありながら「営業マンを必要としない会社になる」ということだ。なぜテスラ社にはこれが可能なのか。その答えは、これから以下で説明する「エクスペリエンス戦略」をテスラ社が採っていることにある。