——ライドシェア事業では成長に限界があるのでしょうか。

【田中】ライドシェア企業はプラットフォーマーですが、Airbnbのような他のシェアエコノミー系プラットフォーマーとは決定的な違いがあります。それはグローバルのように見えてローカルであり、規模の経済を広範囲にはつくりづらいこと。

たとえば東京でやろうと思ったら東京でプラットフォームをつくらなくてはいけないし、大阪なら大阪で立ち上げないといけません。そして中国ならDiDi、インドならOlaというようにそれぞれの国や街に競合がいて対峙しないといけない。そういう構造の業態なので、プラットフォームをつくったから一人勝ちというのは難しい。仮にカラニックが続けていても、この壁にぶつかったと思いますよ。

撮影=浦 正弘
立教大学ビジネススクールの田中道昭教授

ウーバーの事業戦略は、もはや手詰まりか

——ライドシェア以外の活路はどうでしょうか。

【田中】ウーバーはもともとトランスポーテーション・ネットワーク・カンパニーというビジョンを打ち出して、日本でいうMaaSをやろうとしていました。しかし、そのビジョンへのこだわりは現在では感じられず、実現は期待できない状況です。また、競合のグラブがやっているスーパーアプリ路線でも出遅れていて、いまから巻き返すのは難しいでしょう。収益構造でも、人が運転することから自動運転に転換されないと厳しいビジネスモデルです。

いまウーバーは、自動運転より空飛ぶ車にシフトをしています。ただ、空飛ぶ車が実現するのはかなり先です。また個人的には、使命感やビジョンよりテクノロジー企業としてアピールしたいという動機が透けて見えて、あまりわくわくしません。空飛ぶ車を開発しているスタートアップが多いことを考えると、むしろテック企業としてありきたりな印象すらあります。

もう一つは、ウーバーイーツに代表されるギグエコノミーの横展開です。ただ、これもどうでしょうか。『WILD RIDE(ワイルドライド)』を読むと、カラニックはウーバーのスタート時点から人に価値を置いていなかったですよね。ウーバーは車もいらないし人も直接雇わなくていいビジネスモデルで、だからこそ素晴らしいんだと。

そういう価値観がトラブルを生んでカラニック退任の一因になりましたが、経営者が代わった現在もビジネスモデルは同じ。私の眼には、カルチャーもそのまま踏襲されているように見えます。同じ価値観で同じビジネスモデルを横展開しても、結局また同じ問題を引き起こすのではないでしょうか。

——田中先生はギグエコノミーをどのように評価していますか。

【田中】どこに目を向けるかでしょう。働き方が多様化して“副業”ならぬ“複業”が増えてくると、ギグエコノミーを上手に活用する人も増えてくるのでしょう。

しかし一方では、好きでやっているわけではなく、食べるために専業としてフルタイムでやる人もいます。そういう人は本来、社員とみなして扱うべきです。その責任から脱法的なやり方で逃げている企業は、法的に許されるかどうかだけでなく、消費者や社会からは評価されない時代が到来していると思います。