「性格に難あり」で済まされない犯罪的行為
——GAFAなどの企業の経営者と比較するといかがでしょうか。
【田中】革命児と言われるような創業経営者には皆、極端な2面性があると思います。スティーブ・ジョブズ然り、ジェフ・ベゾス然り。まず打ち出しているミッションは桁違いの大きさです。そして、周りの人も、その壮大な使命感に突き動かされて、実現不可能と思われる仕事も「やり切って」しまう。極めて優秀であると同時に、他人を強引に振り回し、疎まれる。優しいかと思えば怒り狂う。人間的には冷酷なところももち合わせていることも共通点でしょう。
企業を数兆円規模に成長させた起業家たちは、多かれ少なかれ人間的な欠点を持っています。もっとも、だからこそ、人としての良し悪しは別にしても、普通の人と比べて突き抜けられ、大きな成功をおさめることができたとも言えるわけです。ただ、欠点がありつつも、みんな社会の一員としてルールや法律を守っていました。
一方、カラニックはそうではなかった。本書に書かれていたものだけでもこんなにあります。大規模なセクシャルハラスメントで告発、Weymoから自動運転技術を盗んだとして提訴。さらに「グレイボール」というツールで法執行機関間捜査を妨害、「ヘル」というプログラムで競合のリフトの営業を妨害。シンガポールでは、発火の恐れがあってリコール対象になっていた車を、それを知りつつ貸与し続ける……。
これらは犯罪的な行為で、性格に難ありで済まされる話ではありません。私は彼には共感できないと思いました。
短期中期なら強い「アウトロー」
——ジョブズたちとカラニックの決定的な違いはどこにあるのでしょうか。
【田中】ヒーローと悪役の違いでしょう。映画や漫画のヒーローは、べつに完璧な人間ではありません。それぞれ欠点や弱さがあって、それが愛される一因にもなっています。まさにジョブズがそうでした。一方、悪役は欠点があるのではなく、人間として備えておくべき大事なところが欠落していて、イリーガルなことも平気でやってしまう。欠点に対して言うと、欠陥があるとも言える。カラニックは、どう見ても後者です。
——突き抜けていたから成功できたという声もあります。
【田中】アウトローですから、短期中期なら結果を出せたのだと思います。私はライドシェアと白タクは別物だと表現してきた一方で、ウーバーの成り立ち自体は白タクであったと分析しています。認められてないところを強行突破して、イリーガルな営業で利益を出してきたわけです。そうした手法は、小さなときは見逃されても、ある程度のところまで行くと社会から排除されます。アメリカでは創業経営者であるカラニックの退任だけで済みましたが、日本なら企業ごと退場させられていたはず。いずれにしてもアウトローなやり方は現代社会ではいずれ通用しなくなり、成長は頭打ちになります。それを成功と言っていいのかは疑問ですよね。
そもそもアウトローが強みを発揮するのは、他のプレイヤーがルールを守っているときに「目的のためには手段を問わない」からです。一人だけ違うルールでやっているのですから、それは短期的には勝ってあたりまえ。でも、みんなと同じルールで戦ったらどうか。戦国時代のようにお互いに何でもありの状況なら、ジョブズやベゾスはもっとすごいことができていたんじゃないですか。
本書の中に、カラニックがイーロン・マスクに提携を持ち掛けて、あっさりと袖にされる場面が出てきます。マスクは自分が組むべきパートナーではないと思って、カラニックを相手にしていなかった。あのシーンが象徴的だったように思います。