これは仕事や人生も同じでしょう。たまたまタイミングや巡り合わせなどの運がよく、うまくいった経営者がいても、実力が追いついていなければ長くは持ちません。そんな人を過去に何人も見てきました。逆に最初は運悪く躓いたとしても、腐らずに努力し続け、実力をしっかりつけておけば、いつかは報われる日がやって来るでしょう。

そもそも麻雀は最初から不平等。配られる牌によって運命がまったく変わります。いきなり上がりに近い配牌をもらう人もいれば、「クズ手」と言われるバラバラの人もいる。それでも歯を食いしばってやるしかない。できる限り、人より早く、高く上がりを目指すしかありません。まさに人生そのもの。泣き言を言っても、誰かを嫉妬しても、何も始まらない。苦しい展開が続いていたら「なんで俺だけこんな目に」とキレそうにもなりますし、チャンスだと思ったとき、逆に大きな失点をして深い傷を負うこともあります。

麻雀をするときは「早く楽になりたい」という気持ちが常にあります。みんなで水を張った洗面器に顔を突っ込んで、最初に顔を上げたやつが負けだと言われているゲームです。誰もが苦しい。最後まで苦しみながら耐え抜いて、洗面器から顔を上げなかった人が勝つのです。これ、本当は余暇にやるようなゲームじゃないかもしれませんね。

サイバーエージェント代表取締役社長 藤田 晋氏

論理、数値だけに頼ってはいけない

なぜ、麻雀をすることでビジネスの手腕が磨かれるのか。会社には、エンジニア、営業、広報、経営者などさまざまな役割がありますが、麻雀は1人でこれら何役もこなしているようなものだからです。技術的に理に適った選択をしなきゃいけないし、相手の感情や場の空気を読めないといけない。捨て牌などを通じて他者に自分をうまく見せなければなりません。

さらに麻雀というのは、局面が常に変わっていく。そのたびに、現在の置かれている状況を正しく把握し、中長期的な展望に立ったうえで、最終決断という経営者的な仕事をやらなければいけません。しかし、人はどれかに偏りやすい。ひたすら合理的な選択を続けていれば勝てると思い込んでいる人もいますが、麻雀はそうはいかない。

局面ごとに、押し引きの判断が逐一変わります。つい一巡前までは、いい手が入ったから押すべきだと思っていたら、急に強い警戒を必要とする危険な局面に空気が変わる。合理的な判断だけでは間に合いません。理詰めだけで答えが導き出せるものだと捉え、理に適ったところに心の拠り所を求めると、とても危ないのです。