生前に相続人全員に事情を言い聞かせておく
ちなみに日本の会社の数は約382万社(「2017年版中小企業白書」より)で、そのうち上場会社は3700社ほど(2019年12月時点)。つまり上場会社は日本の全会社の0.1%に満たず、99.9%の会社がこうした非上場会社です。
会社経営者としては、相続人が法定相続分通りの相続を求めた場合に、どんなことが起きるのかを考えておく必要があります。たとえば相続人に対して「会社の継続が最重要であり、後継者には重い責任を負わせることになる。その代わり、株式と運転資金、それに見合う相続税分の金融資産を相続させざるを得ないから、どうか理解し協力してほしい」と。事情を言い聞かせることが必要になります。
これは嫡出子だけでなく、非嫡出子も含めてです。デリケートなことほど、実の親の口から聞くのと異母兄弟の口から聞くのとでは、受け取り方が全く違ってくるものだからです。
会社経営者の方は、遺言を書いておくことはもちろん、最低限の親の務めとしてこうした準備もしておくことをおすすめします。
遺留分に関する民法改正でできる相続対策
理想を言えば、相続人全員が親の気持ちを理解して後継者に協力する、というのが望ましい形。しかし、どうしても後継者以外の相続人が、相続時に自分の取り分を主張する恐れが高いときは、「遺留分に係る民法改正」が一つの選択肢となるかもしれません。
2018年の民法改正で、遺留分について大きな改正がありました。遺留分とは、故人の兄弟姉妹以外の相続人に保障された最低限の取り分です。この遺留分、実は相続時に個人が所有する財産だけでなく、相続人に対し生前に行った贈与等を加算して算定されます。
これまでは、相続人に対する贈与等は、どれだけ昔の贈与であっても遺留分の算定基礎に入れることとなっていました。それが民法改正により、2019年7月1日以後に開始する相続については、亡くなる前10年以内に行った贈与等に限定されることとなったのです。
このため、事業の後継者が決まっているなら、早めに後継者に株式を贈与することで、その株式を他の相続人からの遺留分侵害額請求の対象から外すことができるようになりました。ただし、「なんでもかんでも亡くなる10年より前の贈与ならOK」「贈与は早い者勝ち」ということではない点に注意が必要です。
「贈与後、相続開始までの間に贈与者の財産が増加する可能性が少ないことを、贈与者も受贈者も認識して行った贈与」については、期限を問わず遺留分の算定基礎へ加えられることになります。贈与者も受贈者も、受贈者以外の相続人の遺留分を侵害することをじゅうぶんに認識していたものと判断されるからです。
例えば、父の財産の大半が経営する会社の株式で、その株式を長男へ贈与すると亡くなるまでの間、父の財産が増えることが全く想定されない——そんな状況で贈与した株式については、亡くなる何十年前にした贈与であっても遺留分の算定基礎へ加えられ、他の相続人からの遺留分侵害額請求の対象となる可能性が高いでしょう。
一方で、株式を贈与後、父が会社役員として報酬を受け取ることで、父の財産がその後も増えると想定されていたのであれば、この贈与は遺留分の算定基礎から外れるものと考えられます。相続トラブルを避けるには、こういった点に留意しながら、思い切って早めに後継者へ株式を贈与するのも一つの選択肢でしょう。