役所による「促進」は対処療法にとどまっている

「世の流れなので、テレワークは導入済みです」と言う会社も少なくない。だが、よくよく話を聞いてみると、利用しているのは専門職的な、担当領域が明確な人だけで、会社全体がテレワーク対応になっているわけではない、というケースが圧倒的に多い。それでは、パンデミックなどの危機対応としてテレワークが威力を発揮することなどあり得ない。ほとんどの社員がテレワークに対応不能な働き方をしているからだ。

もうひとつ、役所の対応が追いついていないことも大きい。

テレワークについては、厚生労働省も総務省も内閣府の男女共同参画局も東京都も「促進する」という立場を取っている。だが、厚労省は「適正な労務管理下における良質なテレワークの普及促進」、総務省は「ICTの利活用によるテレワークの促進」、男女共同参画局は「育児等と仕事の両立を可能とするためのテレワーク」、経済産業省は「生産性の向上」と、各役所が庭先のことしか考えていない。

もちろん、そうした対処療法的対策も重要なのだが、本源的に日本の働き方を変えるためには法制度などを全面的に見直すことがさらに重要になってくる。だがそうした議論は行われていないに等しい。

時間で報酬を規定する「労働基準法」は時代遅れ

例えば、厚生労働省が所管する労働基準法は、すっかりびついた法律の典型例だ。労働基準法が想定する働き方と、現在の企業での主流な働き方はまったく変わっている。労働を時間によって規制し、時間によって報酬を規定するのは、かつて工場労働が主体だった時代の遺物と言っても過言ではない。

今のようにサービス産業が主体となり、労働時間よりも生み出される成果の評価が重要になる中で、労働基準法が追いついていない、と考えるべきなのだ。

端的な例は、労働基準監督局による定期監督の実施状況を見れば分かる。最新である2016年の労働基準監督年報によると、2016年に労働基準監督局が定期調査に入った13万4617事業場のうち66.8%に当たる8万9972事業場で違反が見つかった。旅館業では80.4%、飲食店では74.9%、小売業では71.3%に達する。つまり、ほとんど法律が守られていないのだ。逆に言えば、労働実態を正しく規制する法律になっていないのではないか。