かつては医療費控除だけ領収書の添付が必要だった

医療費控除は、納税者の意向を加味しながら変遷を遂げてきた。筆者が職場に入った当初は、市販薬は医療費控除として認められていなかった。領収書は一部しか残していないので、代わりに「医療費のお知らせ」で受け付けてもらえませんかといってきた納税者にも、これでは受け付けられませんと突っぱねていた。

平成29年から、医療費の領収書が添付用件ではなくなった。このことは、所轄の税務署の職員にとっては画期的なことだったのではないだろうか。

耐火倉庫には、年分ごとに「あ行」から医療費控除の領収書が保管された段ボール箱が場所をとっていたが、そのスペースも必要なくなったと思われる。

筆者は、新米調査官だった頃、なぜ医療費だけ領収書の現物を添付させるのかと不思議に思っていた。それは、給与所得者は年末調整を終えており、所得控除である医療費控除の部分だけしっかり確認すれば事足るからだった。

それが、平成29年から、領収書の添付は不要になり、医療費控除の明細書に記載すればよいことになった。給与所得以外で申告する納税者と同じ扱いになったのだ。

漢方薬やビタミン剤は個別の検討が必要だ

確定申告では領収書の現物を確認することなく、縦の計算に間違いがなければ所得税が還付される。医療費の領収書は5年間、自宅で保管しておけばよいことになった。このことは、裏を返せば、5年間は税務署が確認にくる可能性があるということを表しているのだろう。

ここで医療費控除について網羅することはできないが、レーシック、不妊治療、人工授精、心臓病患者が医師の指示・処方箋に基づいてのAEDの購入又は賃貸費用、公益財団法人日本骨髄バンクに支払う骨髄移植のあっせんに係る患者の負担金も含まれる。

漢方薬やビタミン剤の購入費用、介護に関する費用、血圧計など医療器具の購入費用など、個別に検討しないといけないものもあるが、医療費控除の範囲は広まってきているといえるだろう。

常に新しい情報を納税者に伝えるため、調査官たちは分厚い問答集を購入し手元に置いていた。『医療費控除と住宅借入金等の特別控除の手引』(大蔵財務協会 )だ。

質疑応答は131問にわたり、根拠条文や必要書類などが網羅されているので、一般の方でも使いやすい書物だと思う。

興味を持たれた方は、一度手に取って読んでみるのもよいだろう。