相続法の改正で4月1日から「配偶者居住権」が創設された。どのような制度なのか。元国税調査官で税理士・産業カウンセラーの飯田真弓氏は、「残された配偶者が自宅に住み続けられるように新設された権利だ。だが、配偶者居住権を行使するには、遺言書にその旨を記さなければならないことに注意だ」という——。
高齢夫婦がコンサルタントとともに書類を見てディスカッションしている
写真=iStock.com/gradyreese
※写真はイメージです

遺言書は「大金持ち」だけのものではなくなった

今年は新型コロナウイルスの影響で確定申告期が1カ月延期になった。

お国から緊急事態宣言が出されて以降、電車では連日感染拡大を避けるため、時差出勤やテレワークを勧めるアナウンスが流れるようになった。筆者も極力外出を避けるようにしている。

テレビ番組や映画の配信サービスを契約をしていたことを思い出し、休日は昔のテレビ番組や映画を観て過ごしている。そんな中、見入ってしまった作品がある。『犬神家の一族』だ。

2006年のリメイクバージョンを観た後、1976年に公開された作品も観た。同じ俳優が同じ役を演じていることもあれば違う役を演じていることもあり、少し内容が違っているところもあったり、で、いろんな意味で楽しめた。

この映画では遺言書が大きなカギとなっている。

1作目が上映された頃、筆者はまだ小学生だった。遺言書を書くのは、犬神家の一族のような大金持ちの人たちだけで、自分たち一般庶民とは縁のない話だと思っていた。

時は流れ、法律が改正された。

4月1日から認められた「配偶者居住権」とは

1月14日配信のプレジデントオンライン「”相続税0円”でも決して安心してはいけない訳」にも書いたが、納めるべき相続税がなくても、遺言書がないことで相続でもめる人が増えていることが社会問題にまでなってきている。

それを受けて、相続法が改正され、2020年4月1日から認められるようになったのが「配偶者居住権」だ。

配偶者居住権は次のように定義されている。

「配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象として、終身または一定期間、配偶者に建物の使用を認めることを内容とする法定の権利」

つまり、配偶者居住権とは「配偶者が、亡くなった人(被相続人)と生前から同居していた場合、その自宅の権利を相続しなかったとしても、住み続けることが認められる」という権利だ。

年老いた片親が亡くなった場合、残されたほうの親の老後の生活はどのように保証されるのか。個人のレベルに任せるのではなく、法治国家の責務として、法を見直すことで救済したいという趣旨からできた法律だと理解してよいと思う。