配偶者短期居住権は自動的に発生する
配偶者居住権と配偶者短期居住権には、成立要件に大きな違いがある。
配偶者居住権の成立要件は、「配偶者が相続開始の時に被相続人所有の建物に居住していたこと」および「その建物について配偶者に配偶者短期居住権を取得させる旨の『遺産分割』、『遺贈』または『死因贈与』がされたこと」の2つだ。(民法1028条1項・554条)。
遺言書に記載しなければ配偶者居住権は発生しないが、配偶者短期居住権はなんら手続きをしなくても自動的に発生する権利だという点だ。
遺言書がない田中一郎さん一家の場合で、もし、花子が愛から即座に自宅を出ていくように要求されても、遺産分割協議が終わるまでは、自宅に住む権利が守られるようになったということだ。
なお、「配偶者」は、法律上被相続人と婚姻をしていた配偶者をいう。残念ながらいわゆる“内縁の妻”は含まれない。
配偶者居住権を行使するには遺言書の書き直しが必要
2013年度の相続税改正により基礎控除額が少なくなったことで、自分のケースも相続税が発生することになり、既に遺言書を作成している人もいるだろう。
「もう遺言書を作ったので安心だ!」
と思っているかもしれないが、2020年4月1日より前に遺言書を作成された場合は、もう一度、内容を見直してみることが必要だろう。
配偶者居住権を行使するには、遺言書にその旨を記さなければならないからだ。
遺言書はパソコンでも作成可能となり、必ずしも、専門家の手を借りなければならないというものではなくなった。しかし、2020年4月1日までに、作成してしまったという人は、一度、その内容について、専門家にチェックしてもらうことをお勧めしたい。
今年はインフルエンザがあまりはやらなかったという話がある。
新型コロナウイルスの感染拡大を予防するため、うがい手洗いが励行された結果、インフルエンザの発病が予防できたということらしい。
何事も予防が大切、相続もしかりである。
相続財産を受け取るのは権利だ。
被相続人は、妻や子どもに何を遺したいと思っているのか。
権利と義務は、相対応する言葉である。
相続人に権利を与えるのは、被相続人である親だ。
相続人全員が納得してその権利を行使できるように、生きている間に手だてを打っておくことが、親としての最後の務めといえるのではないだろうか。
相続人となる妻や子どもだけではなく、その家族も含めて話し合う場を持つことが大切だろう。
その際、単に納めるべき相続税が少なくて済む方法を提案するのではなく、家族のことを親身になって話を聴いてくれる専門家を交えることも忘れてはならない。