自分の失敗を直視しない人が歩むいばらの道
ある事業を始めるとき、過去に人がどんな失敗をしたのかを知ることで、その失敗を未然に防げる。失敗事例を多く集めれば集めるほど、さまざまな失敗が防げる。私は、この考え方に感銘を受け、これを受験のケアレスミス対策に活かせないかと考えた。
前出の私が監修をする通信教育で雇っている東大生20人に「受験生のよくやってしまうミス」50個を集めてもらい、それぞれをどうすれば防げるかの対策も考えてもらった。その内容を網羅したのが拙著『ケアレスミスをなくす50の方法』(ブックマン社)である。
残念ながら、私がこれまで出した受験勉強のテクニック本ほど売れなかった。1点でも多く点を取りたい受験生にとって「ミスをなくす」ノウハウ本はあまり魅力的ではなかったようだ。新しい参考書や問題集を買ったり、予備校の受験直前講習に参加したりと「攻めの勉強」をする一方、ミス防止のような「守り」の対策をしないまま受験に突入してしまう。おそらく多くの受験生は自分が過去の模試などで犯したミスのチェックや振り返りもしていないのだろう。
畑村教授が言うように「人間は一度やったミスを繰り返す」のだから、模試でしたミスは本番でもミスする可能性が高い。だから、高い学力を持ちながらも不合格となる番狂わせが起きる。まさに賢い人間がバカな選択(ミス防止対策をしない)をして、バカな結果(不合格)を甘受する。本当にもったいないことである。
「自分は負けるはずがない」ミスを認めようとしない
実は、こうした事例は大人もしばしば引き起こす。私は「大人のための勉強法・仕事術」といったテーマで原稿執筆依頼をされることがある。これはビジネスパーソンの読者が、自分の能力やスキルのノウハウ、知識を高める目的で購入するのだろう。その意欲自体は買おう。
しかし、前述したように過去の自分を振り返り「ミス防止対策」をしていないのなら本末転倒だ。その作業をおざなりにした結果、社内での立場が弱まったり失脚したり、不名誉なレッテルを貼られたり、と「負債」を抱えることになったら目もあてられない。
「ユニクロ」を展開する柳井正社長の著書に『一勝九敗』(新潮社)がある。人生やビジネスでは、負けることも多いが、その「負け」を小さくし、「勝ち」を大きくすれば最終的には成功することができる、といった教訓も書かれている。これはミスを減らすべきという私の発想と近いものがある。
逆に、10戦して9勝していた人がたった1敗のため、人生を大コケしてしまうケースがある。例えば、株や不動産の取引をして成功していた人がバブル崩壊やリーマンショックの際に破産の憂き目に遭う。その原因のひとつは「自分は負けるはずがない」という驕りだったかもしれない。人生にはいい時も悪い時もある。勝つ時も負ける時もある。そうした真理を無視して、自分を買いかぶったツケが回ったのだ。
こうした勘違いを起こすのは、とりわけ「高い学歴」の人に多い。自他ともに「賢い」と認めた人物は、自分がミスをするのではないかと疑うことをしなくなる。それが落とし穴に落ちると、周囲は「ほれ、見たことか」と内心ほくそ笑んでいる。