社会全体で議論がまだまだ進んでいない

中国では感染拡大が確認されるや、1000万人都市である武漢をはじめとする周辺地域の公共交通を遮断し、街ごと隔離して封じ込めにかかった。日本の感染症法や新型インフルエンザ等対策特別措置法でも、感染症の種類や状況によっては、外出自粛の呼び掛けや、人が集まる施設の使用制限、交通遮断を実施できるようにはなっているものの、私権の制限がどこまで認められるかという議論や、都市機能・経済への影響を考慮すると、一企業の判断として輸送を停止するのは言うに及ばず、政府や都道府県が強制力をもって交通機関を遮断することも現実的とは言えないだろう。

結局、鉄道事業者は最低限の輸送を確保することしかできず、最終的には企業や利用者に協力とマスク着用などの自衛を求めるほかないのである。

2014年の国交省の調査研究報告では都内の企業にも感染症対策の検討状況についてアンケートを行っているが、感染症の流行ピーク時に鉄道の運行本数が減り、混雑する可能性があることをあらかじめ想定していると回答した企業は半数に満たず、混雑を避けるための在宅勤務や時差出勤などの対策を講じている企業もごく一部にとどまった。

感染症流行時の鉄道利用に関する問題意識は、まだ一般に共有されておらず、対策も進んでいない。今のうちに、こうした検討と準備を進めておくことが、新型コロナウイルスに対する最大の備えになるのではないだろうか。

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