では、個人のアンカーは変わるのか。私のアンカーはずっと「自律・独立」だったが、7、8年前から「奉仕・社会貢献」のスコアが高くなった。これは私自身、腑に落ちる結果でもある。というのも、以前の私はとにかく研究一筋、学問的に評価される本をどう書くか、だけで頭が一杯で、世間の評価など歯牙にもかけない気持ちだったのだが、最近は「世の中のためになる、わかりやすい本を書きたい」と考えるようになったのだ。
シャインに会ったとき、この話をして、個人のアンカーは変わるのではないかと尋ねたところ、「アンカーが変わったのではない。本当の自分の姿がより明確になったのだ。人生には幾重もの扉があって、そのひとつが開けられたんだ」といわれた。
これを聞いて、思いついたのが「キャリア・エピファニー」という概念である。エピファニーとは「神の出現」という意味である。新しい扉が開き、新たな自分の姿が見えてくるというのは、ある意味、エピファニーにほかならない。
仕事が大好きで、家族のことなど顧みなかった人が不治の病に罹るが、奇跡的に生還を果たしたら、別人のように家族との生活を大切にするようになった、という話をよく聞く。彼もエピファニーを得たのだ。
さまざまな経験をして次の扉が開いたときに初めて犠牲にしたくないほど大事なものに気づく。非常に素敵な概念だと思う。
※すべて雑誌掲載当時
(構成=荻野進介)