再建に力を発揮する温泉ホテルで培ったDNA

神戸ベイシェラトンを引き継ぐなかでホテルニューアワジが気づいたのは、高コスト体質だった。当時の神戸ベイシェラトンは一部屋あたりの平均単価は1万円程度、年間稼働率は70%と低迷していた。この集客力の弱さが赤字の要因とみられていた。

どうすれば黒字に転換できるか。これまでホテルニューアワジが手がけてきた地方のリゾートホテルであれば、年間稼働率が70%もあれば御の字である。シティホテルとすれば稼働率は低いかもしれないが、リゾートホテルとすれば決して悪い数字ではない。リゾートホテルで確立したオペレーションを持ち込めば、集客改善は難しくても、黒字転換は可能ではないか。このような見通しでの買収だった。

例えば、以前の神戸ベイシェラトンでは、水道光熱費が売上高比で14%だったが、現在では8%におさえている。ヒートポンプを導入して廃熱利用を進めたことなどの効果だという。

スタッフの勤務形態についても、リゾートホテルのやり方がある。繁閑に応じてレストラン部門、宴会部門、宿泊部門、管理部門の垣根を越えてシフトさせる体制を整えた。

「和」を感じることができるシェラトンに

また食については、神戸ベイシェラトンの魅力を高めるため、兵庫県全体の食材を活用するようにした。神戸は兵庫県の県庁所在地である。それ以前のホテルニューアワジのホテルでは淡路島にこだわった食材を使っていたが、神戸ベイシェラトンでは瀬戸内海の鯛、但馬牛、日本海のカニと兵庫県全体に広げた。

リラクゼーションについては、新たに温泉を掘り、天然温泉掛け流しの浴場を開設した。神戸は長らく、異国文化と日本の窓口となる港町だった。このことを踏まえて、シェラトンというグローバル・チェーンのなかにあって和を感じてもらうための施策だ。

写真=神戸ベイシェラトン ホテル&タワーズ提供
「シェラトン」という高級ホテルブランドながら、浴衣姿で温泉に行ける

とはいえ、単に温泉があるというだけでは、同種の施設をもつビジネスホテルなどとの差別化ができない。このためシェラトンでありながら、宿泊客は温泉へ浴衣にスリッパ履きで出かけられるようにした。

しかし一方で、シティホテルらしい品位も保たたければならない。そこで客室フロアから浴場階への専用エレベーターを用意した。ロビー空間に浴衣姿の客が現れるのを防ぐ工夫である。なお、この専用エレベーターは、裏にあった従業員用エレベーターのひとつを転用したものであり、新設ではないという。