医師が一斉退職。市民病院に1人残った34歳の医師が院長に就任
同病院は現在、志摩市南部の回復期や緩和医療、在宅医療において重要な役割を担う中核病院だ(一般病床17床、療養病床60床)。とはいえ、4年前まではいかんせん、毎年7億円の赤字を垂れ流す典型的な“お荷物病院”だった。
しかし、2016年4月、34歳にして新院長に江角悠太さんが就任すると、診療所へ規模を縮小することさえ検討されていたダメ病院が奇跡の復活劇を遂げるのだ。
それまで年間赤字7億円だったが、赤字額を毎年1億円ずつ減らし、今年2020年には、基準外繰り入れ額(※)の赤字額がほぼゼロになるところまで経営を立て直した。
※公立病院はへき地医療など、不採算医療を担うため、地方自治体の「一般会計繰り入れ金」と総務省が認める「基準内繰り入れ金」が経費として認められている。志摩市民病院で削減できたのは、これらを除く「基準外繰り入れ金」。
たった4年で4億の赤字解消をした立役者とはどんな人物か
約4億円分の赤字解消をした立役者、江角院長とはどんな人物か。
三重大学医学部を卒業後、大学の医局で働いていた江角さんは2014年12月、志摩市民病院へ「医局派遣」でやってきた。これは医師が足りない地方の病院へ、医局が医師を派遣する仕組み。多くの医師が“ご奉公”として数年働くものの、その後は、医局に戻ったり、患者の多い都会の病院へ行ったりしてしまう。
ところが、江角さんは東京出身ながら、大学で世話になった三重県への恩返しとして、医師不足のこの地に骨を埋める覚悟でやってきた。趣味はサーフィン。「病院から海が近い」という点も動機となった。
そして、派遣からわずか2年後の2016年4月には院長に就任する。卒業してからの7年間でスピード出世して34歳という若さでの“トップ就任”には事情がある。