価値が大きく変動しにくい設計になっている
前述の通り、リブラの発行・運営団体は明確であり、米ドル、ユーロ、日本円、イギリスポンドなどの主要通貨や短期国債で裏付けることによって価値が大きく変動しにくい設計になっている。加えて私はスイスフラン、カナダドル、オーストラリアドル、人民元、ロシアルーブル、インドルピーなど10カ国程度の加重平均で1リブラの価値を決めるようにすればいいと思う。
参考になるのはEUにおけるユーロ導入の経緯だ。EUでは参加国通貨の加重平均をバスケット通貨(ECU)として数年使用した後、ユーロを導入した。その後ギリシャやイタリアなどの政治家が財政を破綻させるような予算を組もうとしたがユーロに縛られて自制せざるをえなかった。政治家が予算を奮発して得票しようとしてもユーロという共通通貨が制裁することを実証した。
逆にドルや円が国家権力の名において乱発されるとこれを防ぐ方法はない。ヨーロッパの経験を参考にしてリブラの価値を決めれば、さらに安定した「通貨」になりうるだろう。
リブラのポテンシャルに怯えて国家(政治家)が手足を縛っていれば、ブロックチェーン技術と「デジタル人民元」を国家戦略のコアに据える中国に先を越される恐れがある。習近平の頭には共産党の最終的な勝利しかないわけで、アント・フィナンシャルと連合を組んで行き着く先は「デジタル人民元」による世界支配ということになりかねない。
従って、ザッカーバーグ氏は片手間でリブラを推し進めるのではなく、FBを去って21世紀の金融革命の旗手として自分の財産を裏付け資産のシード(種)とする、と名乗り出なければならない。そして、リブラ陣営が中国も取り込んで、人民元も含めた加重平均でリブラの価値を定義してスタートするべきだろう。
(構成=小川 剛 写真=AP/アフロ)