また米ドルやユーロ、日本円、イギリスポンドなどの主要通貨や短期国債などで裏付けることによってリブラは価値が大きく変動しにくい設計(簡単にいえば法定通貨を担保に積んで、その分の仮想通貨を発行する仕組み)になっている。
銀行口座を持たない10億人以上の人々を助けられる
公聴会でザッカーバーグ氏は「リブラはアメリカのイノベーションの最たる例であり、世界中の銀行口座を持たない10億人以上の人々を助けられる」とリブラを発行する意義を語った。世界には銀行口座を持っていない人が10億人以上いる。
リブラはスマートフォンで利用できて、銀行などの金融機関を経由しなくても、国境を越えて安価な金融サービスを提供する。買い物などの決済に使えるだけではなく、FBのメッセンジャー機能を使って家族や友達との間で簡単に海外や国内に送金できるようになるといわれている。
しかしながら、「マネーロンダリング(資金洗浄)に悪用される」「流通把握やプライバシー保護が難しい」といった批判や懸念が発表当初からついて回った。FRB(米連邦準備制度理事会)のジェローム・パウエル議長は米議会で「リブラはプライバシーや資金洗浄、消費者保護の面で深刻な懸念がある」と主張しているし、トランプ大統領も「リブラは信用できない」とツイッターに書き込んでいる。
こうした背景にはFBの個人情報流出問題や16年の大統領選挙でフェイクニュースの拡散に利用された不信感がある。19年7月にフランスで開催されたG7(主要7カ国)の財務相・中央銀行総裁会議でもリブラ対策が大きな話題になった。いつもなら角突き合わせて何も合意できないG7なのに、ことリブラ対策については珍しく合意がまとまった。それほどリブラは警戒されている。米議会では「開発を一時停止すべきだ」とリブラの発行を阻止する動きが強まり、下院金融委員会の公聴会にザッカーバーグ氏が呼び出されたのである。
公聴会ではリブラへの疑念、安全性を懸念する意見が相次いだ。ザッカーバーグ氏は「リブラへの不安は理解している」としたうえで、発行への意欲を示しながらもこう言明した。
「これだけはハッキリさせておきたい。米国の規制当局が承認するまで、世界のどこであってもリブラの決済システムの立ち上げにフェイスブックは参加しない」
リブラ導入に大賛成の私には、この発言は残念でならない。規制当局の許可が下りるまでというのは、たとえるなら「ルイ16世が納得するまで革命は起こしません」と言っているようなものだ。国家が独占してきた通貨発行権を脅かすようなリブラを政府がやすやすと認めるはずがない。