2つ目は「人事の硬直化」。日本企業は、純粋培養した正社員を管理職や経営層へと引き上げます。社員のモチベーションアップといった効果はあるにせよ、これでは経営人材という重要なリソースの供給源が限られてしまいます。ITなど急速なテクノロジーの発達やグローバル化によって、経済環境の変化のスピードがどんどん速くなっています。企業がこれに対応するには、新しいスキルやノウハウを持った人材を社外から機動的に獲得しなければなりません。それによって社内が活性化され、既存の社員も育つのです。
ところが日本企業の経営層は、専門性が乏しく社内のことしか知らない“サラリーマン代表”ばかりです。それに対してグローバル企業では、社内外から専門性の高い優秀な人材を集め、大企業をいくつも渡り歩き実績も築いた「経営のプロ」に指揮を任せます。これではアマチュアのサッカーチームと、バルセロナやレアル・マドリードのようなビッグクラブが試合をするようなもので、結果がどうなるかは考えるまでもないでしょう。
正規/非正規の身分格差がなくなる
とはいえ、日本企業を取り巻く経営環境は大きく転換しつつあります。その引き金になったのが団塊世代の引退で、政府も企業も労使一体の利権構造の呪縛からようやく解放され、グローバルスタンダードに追いつくための経営改革・働き方改革を活発化させています。「同一労働同一賃金制度」が日本でも20年4月から順次導入されますが、それによって正社員を一方的に優遇することはできなくなり、正規/非正規の「身分格差」もなくなり、雇用の流動化が加速するでしょう。
その一方で、優秀な若手人材を巡る争奪戦が激化しています。日本企業の人事制度は軍隊と同じで、同一条件による一括採用をずっと続けてきましたが、NECは将来有望と判断した新人には年収1000万円を払う新制度をスタートする予定で、NTTは、院卒について、研究実績など個別条件による優遇採用に踏み切り、最高で1億円の年俸を出すと報じられています。
もっともこうした採用は「GAFA」などのグローバルIT企業がずっと先行しており、例えばグーグルは、破格の報酬で優秀な「博士」をかき集め「ドクターコレクター」と揶揄されましたが、学校教育の“優等生”がビジネスの現場でまったく役に立たないことがわかり、数年で学歴不問・実力主義の採用に転換しました。それに比べれば日本企業の人事戦略はひと回りもふた回りも遅れていますが、自分たちがグローバルな競争から脱落しつつあると気づいただけでもまだマシでしょう。